ボク自身が最新モデルを評価する場合、ベンチマークは必要になる。それがないと、評価を誤ることもある。とくに、危険なのは海外試乗の場合。最新モデルの単独試乗をして、現地で「クラス最高レベルに達してるゾ」と評価しても、帰国後にベンチマークとするクルマに乗ってみると「そうでもなかった」と誤解に気付いたことが何度かある。
 その理由は、試乗の舞台として最新モデルが得意とするルートが選ばれることが多いからだ。プロのリポーターとしての力量は、そうした誤解がないようにすることでも発揮されるわけだが、ボク自身はこの点でまだまだ完ぺきではない。なら、現在のベンチマークが何なのかと問われても、それはリポーターとしての企業秘密なので明らかにはできない。ただ、1モデルではなく評価項目ごとに複数のベンチマークを置きながら、評価の精度を高める努力をしていることだけは確かだ。
 さらに、国内外を問わず試乗の舞台になる頻度が高いところでは特定コーナーごとに、あるいは特定路面のうねりや荒れごとに、どこで何の評価をするかも決めている。それ以外の場所でも、いわば環境的ベンチマークに近いコーナーを探すことで、評価の精度を高めようとしているが、まぁ、思うようにはいかないこともある。
 ちなみに20年近く前の話をすると、当時マイカーとして所有していた'72年型の911Sがある意味ではベンチマークだった。すでに、10年落ちを越えていたクルマだ。でも、だからこそやれ4バルブだDOHCだと型式的な新技術を採用することのみに価値を見出そうとしていた日本のスポーツカーを、冷めた目で評価することができた。なにしろ、それらは911Sが搭載するSOHCの2バルブエンジンをあらゆる点で超えてはいなかった。技術の進化とは、形式ではなく中身の熟成を意味することが明らかになった。
 ところで、日本のメーカーは欧州車をベンチマークにして開発を進めることが多い。そのこと自体は、欧州のメーカーも日本車をベンチマークにすることがあるはずなだけに何の不思議もない。ただ、気になることもある。ベンチマークにする際、何でもかんでも数値的な目標を設定していることだ。感覚的な差を数値に置き換えることも技術のひとつだが、それが一人歩きしている感がある。
 たとえば「ボディの○○部分に△△Hzの振動を与えたときの剛性が、欧州車の××に勝っているからハンドリングが向上した」といったように、だ。数値に置き換えることは、開発の現場で上司を納得させるためにも必要なのだろうが、ベンチマークにされた欧州のメーカーのエンジニアにそれを事実として指摘しても「ああ、そうだったんですか……」と逆に感心されかねない。欧州のメーカーのエンジニアも、自らが経験的に積み重ねてきた技術的な成果を数値に置き換える努力はしているだろう。だが、単にその数値を超えることを開発目標にしてはいないように思えてならない。
 つまり、感覚的な評価の裏付けとして数値が必要なのであって、その逆は成立しない。日本メーカーのプレス試乗会でも、しばしばこうした数値が用いられるが、感覚と一致しないことが多いのだ。
 その点、自動車雑誌のリポーターは楽である。ベンチマークは企業秘密とかいいつつ、自身の感覚がすべてなのだから……。



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