欧州CセグメントにBMWが投じた衝撃の問題作、1シリーズが早くも日本に上陸した。
その見どころは、FRレイアウトや50対50の前後重量配分といった独自性がもたらす
スポーティな走りに集約されるが、同時にそれらはバイエルンのDNAを強烈にアピール。
サイズこそ小さいが、中身は7シリーズにも通じる「らしさ」に満ちているのだ。

リポート|熊倉重春|S.Kumakura  フォト|松本高好|T.Matsumoto


 彗星見参。ヨーロッパ最大にして最激戦区である通称Cセグメントは、これまでなら小型実用大衆車の本陣だった。そこに高級ブランドの一角からBMWが舞い降りたのだから、ことのほか波紋は大きい。極論すればCセグメント全体の質的転換をうながす、歴史的な事件かもしれない。
 まずBMWの新星1シリーズをテストした結果から報告すれば、とにもかくにもミュンヘンの文法そのもの。同クラスのライバルより一段も二段も高価とはいえ、BMWとしては最も安いにもかかわらず、機構面でも装備でも、何も省略されていない。その点では3を飛び越え、5はおろか7シリーズと直結する部分すら多い。「Cセグメントだから、この程度」という枠を無視し、上級BMWを煎じて煮詰めて水分を抜いたら、ここまで縮んだと解釈すべきだろう。
 その最大の訴求ポイントは、もちろん走行(操縦)感覚にある。おそらくファンの興味もそこに集中しているだろう。その基本となるのが、いかにもBMWらしいこだわりと言うべきか、ご存じFR方式にある。横置きFFが常識のCセグメント以下では唯一だ。1シリーズ開発の噂が流れた当初、FRを墨守すると聞いて驚いたものだが、「高級車やスポーツカーにFFがあるでしょうか」とBMWは胸を張る。たしかに彼等にとって最も扱い慣れた形式であり、自慢の走行感覚の基本でもあるから、新分野への進出に際しても最大最強の武器としたかったに違いない。後で紹介する通り、その効果ははっきりしている。
 一方、やや意地悪な見方をすれば、まだFFの手法を完全には消化できていない証拠かもしれない。ミニで得た経験値ぐらいでは、このセグメントで通用し得ないからだ。また、Cセグメントらしく限られた全長(約4.2m)の範囲でエンジンを縦置きしたばかりか、50対50に近い前後重量配分(FFでは不可能)にするため思い切ったフロントミッドシップ配置を採った結果、室内スペースが犠牲になったのも否めない。
 4気筒エンジンが半分スカットルにめり込んだエンジンルームを眺めれば、将来6気筒搭載モデルが追加されても不思議ではなさそうだ。そのしわ寄せは、主に後席に集中している。身長170cm強のドライバーが楽な運転姿勢を取った後ろでは、後席パセンジャーの膝の前には拳骨半分しか余裕が残らない。乗り降りに際しても、非常に太いBピラー基部や高いサイドシルのため大きく足先を引く必要があり、それでも爪先がどこかに当たることがある。シート自体がたっぷり広く快適であり、リアドア開口部がCピラーに大きく食い込んで頭部の邪魔にならないなどを考慮しても、セダンとしてはぎりぎりの線にとどまった。
 しかし、そんなことは作った当人が百も承知のはずだから、ここは確信犯と見ておこう。ゴルフや307ではなく、あえて1シリーズを選ぶユーザーも、単なる広さ以外のものを求めているに違いない。それは走ればすぐわかる。こんな小さなクラスにまで、自慢のダブルジョイント・ストラット方式のフロントサスペンション(しかも総軽合金)を持ち込んだ御利益はあらたかすぎる。5や7の贅沢な手応えを、さらに凝縮したようなものだ。ジワッと深く落ち着いたリアの挙動ともあいまって、とても高級なスポーティ感覚が貫かれている。


 いや、そのように単純に褒めるだけでは、1シリーズの真実はわからない。その奥にはいろいろ複雑な要素が潜んでいるので、残りの誌面の大半を使って、そのあたりを掘り下げておこう。基本的に優秀きわまるハンドリングではあるが、いざ買うとなると、けっこう悩みも深そうなのだ。
 今回テストしたのは、まず先陣を切って今秋から納車が始められる120iのノーマル仕様とスポーツサスペンション装着仕様。タイヤは前者が205/50R17 89W、後者が205/55R16 91Vだった。これらを比較すると、ノーマル系はかなりフラットな乗り心地だが、ステアリングの切り始めの手応えに、ややデッドな感触が目立つ。一気にエイヤッと切り込めば問題なく、その状態からの微修正などすばらしく応答性が高いが、普通に走る範囲ではBMWらしくない気がすることも多い。その点スポーツ版は満点で、グッと切り込みだした瞬間からしっかり前輪が踏ん張り、もともと軽いノーズを素直にインに向ける。このカチッと硬質な身動きはZ4をさえ凌ぐ。しかしこちらのサスペンションの場合、舗装面の凹凸などで予想以上に上下動が出る。ガツンと不快な突き上げではないが、はっきりした持ち上げではある。余談ながら、ゴルフR32、ルポGTI、金属スプリングのカイエンなど、どうも最近のドイツ系スポーティ車は、この種の上下動に対して無神経ではなかろうか。
 それはともかく、1シリーズが全車種ともランフラット・タイヤを標準装備していることと、これは無関係ではなさそうだ。ランフラット路線そのものは近未来の先取りであり、いろいろな意味での安全性はもちろん、このような小型クラスではスペース節約にも効果絶大だから、BMWの決意はおおいに称賛すべきだ。その一方、タイヤメーカーの必死の努力にもかかわらず、まだランフラットが発展途上なのも事実。特にバネ下重量が嵩むのが痛い。今回のスポーツ仕様においても、それが無用の上下動を増幅した可能性はある。
 それでもZ8以来、ここまでランフラットを使いこなしたメーカーはBMW以外にない。もちろん、Cセグメントでは異例の贅沢というべきで、少し気になる点はあっても、「ここにもBMWがいる」という新鮮な事実の方が優先するかもしれない。コンパクトカーこそ21世紀の主流と言われる中、「小さな高級車」なるトレンドを、新しい1シリーズはかなり的確に掴んだと見ておこう。
Specification
BMW 120i
■全長/全幅/全高(mm)
4240/1750/1430
■ホイールベース(mm)
2660
■トレッド(前/後)(mm)
1485/1495
■車両重量(kg)
1370
■乗車定員(名)
5
■エンジン種類
N46B20OL/直4DOHC 16V
■排気量(cc)
1995
■最高出力(ps(kW)/rpm)
150(110)/6200
■最大トルク(kg-m(Nm)/rpm)
20.4(200)/3600
■トランスミッション
6AT
■サスペンション(F:R)
ストラット/コイル:5リンク/コイル
■ブレーキ(F:R)
Vディスク:ディスク
■タイヤ(ホイール)
205/55R16(7J)
■東京標準現金価格
¥3,665,000
問い合わせ先
※上記スペックは本誌発売当時の値です。
 
スポーティにして上質な走りを実現する1シリーズの足回りは、フロントがオールアルミ製のダブルジョイント・ストラット。リアは新開発の5リンク(マルチリンク)式。

  ダブルVANOS、バルブトロニックに加え共鳴過給吸気システム(DISA)を備える120iの直4。日本仕様に組み合わせるミッションは、ZF製の6速AT(GA6HP19Z)のみ。
シート地はプレーンな「モアレ・クロス」(写真)が標準だが、ラグジャリーなレザー等も選べる。フロントについては、サポート性の高いスポーツシートも用意。
  タイヤはランフラットで統一。試乗車はオプションの17インチ(サイズは205/50R17。ホイールはVスポーク・スタイリング141)を装着していたが、120iの標準は16インチ。



ボディカラーはソリッド4色、メタリック7色の計11色を用意。インテリアカラー、トリムも4種類から選択可能だから、好みを色に反映させるのは容易なハズ。年内発売はトップモデルの120iのみだが、'05年3月頃にはベーシックな116i(エンジンは1.6リッター)、中間グレードにあたる118i(DISAが付かない2リッターを搭載)の販売もスタートする。
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