
 |

たとえスーパーサルーンの領域に突入しても、アルピナ・ボーフェンジーペンは周囲に染まらず、独自の道を行く。もともとアルピナは熱く速いとか、何かと競って勝つとか負けるとかには縁がない。絶対的なパワーやスピードではなく、それをどれだけスマートに表現できるかにこだわるメーカー(そう、BMWのチューナーではなく、それを素材とした完成車メーカーとして自らを位置付けている)であり、そういう境地を理解できる者だけが乗る資格を持つクルマなのだ。
だからBMW7シリーズを料理したB7が500psを叩き出しても、ほかの500ps級とは風合いが異なる。普通なら、パワーアップのためには排気量を拡大するか、より大きなエンジンに積み替える。あるいは、それと同等の効果を得るためにターボで武装する。ところがB7はどちらでもなく、機械式のスーパーチャージャーを選択した。
スーパーチャージャーはエンジンの回転と常に正比例して働くため、低回転でも素直なアクセルレスポンスと過給効果を得られるところが利点。だが欠点も少なくない。まず機械的に駆動するため、エンジンルーム内での搭載位置が限られる。B7の場合は、V8の左バンクの吸気側カムシャフト前端からベルトでラジアル型スーパーチャージャーを駆動するという変則的なレイアウト。本来ラジアル型はさほど高効率ではないが、スペースを食うルーツ型やリショルム型は置けないのだろう。
それにパワーロスもある。ターボはもともと捨てる排ガスの熱エネルギーを再利用するものだが、スーパーチャージャーは駆動のためにエンジン本来の力を必要とする。B7の場合、最高出力発生時には、駆動のために最低でも30psは費やしていると思われる。
にもかかわらず、こうして仕上がったB7は、まさにアルピナの精神世界を余すところなく描き尽くす秀作だ。ターボ仕様もあるアルピナだが、やはりNAこそ本筋で、その良さをスーパーチャージャー仕様のB7は忘れていない。惜しいことに額面500psと称しても、ほかの同クラス車ほど上限でパンチが目立つわけではないから、なんとなく線が細く思えてしまうのも、それがアルピナなら納得できる。速いが、簡単には速さを実感させないのだ。
しかし、普通に路上を走って最もパワーというかパンチを実感できるのは、この日ここに集合したマッチョな同クラス車ではなくB7だ。1500rpmでもいい、2000rpmでもいい、スッと踏み込んだ瞬間のサクッと鋭い反応が、こんなに美しいクルマも珍しい。もちろんその瞬間に途方もないトルク(最大で71kg-m/4250rpmだが、ずっと低い回転域でもほぼ同レベルに感じられる)を捻り出しているのに、あり余る無駄感がなく、すべてきちんと走りに貢献している。だから基本が6速ATとはいえ、ステアリング裏のボタンで操作するマニュアルモード(スウィッチトロニックと称する)を駆使して、最も美味な中速回転域を保ちたくなる。これこそ究極のレシプロといわれるBMWエンジンを生かすポイントで、それを本当に理解しているのは、ミュンヘンの特殊部隊Mでなければアルピナしかない。
こんなエンジンの特別なフィーリングといえば音だろう。BMWらしく滑らかな息吹に重なって、特にパワーオンではスーパーチャージャーからの金属的な響きがコクピットにまで侵入してくる。グリルとインタークーラーのすぐ後ろ、しかもボンネットのすぐ裏に位置するだけに聞こえやすいのかもしれない。これをノイズと捉えるかサウンドと解釈するかは人それぞれだが、それによってアルピナ的世界への帰依の度合いもわかるというものだ。
Specification
■全長×全高×全幅=5029×1902×1477mm
■ホイールベース=2990mm
■車両重量=1970kg
■エンジン種類/排気量=V8DOHC32V+スーパーチャージャー/4398cc
■最高出力=500ps(368kW)/5500rpm
■最大トルク=71.4kg-m(700Nm)/4250rpm
■トランスミッション=6AT
■サスペンション(F:R)=ストラット:インテグラルアーム
■ブレーキ(F:R)=Vディスク:Vディスク
■タイヤサイズ(F:R)=245/35ZR21:285/30ZR21
■東京標準現金価格=19,950,000円(ニコル・オートモビルズ) |
|
|


 |
 |

アルピナは以前、5シリーズをベースにしたB7系でターボを使っていたが、今回7シリーズの4.5リッターV8に過給器を組み合わせるにあたり、伝説の称号を復活させた。バルブトロニック+スーパーチャージャーの制御は困難を極めたはずだが、アルピナのエンジニアは見事クリア。あたかもNAの様な、ナチュラルなフィーリングがそこにある。トランスミッションはステアリングシフト付き6ATのスウィッチトロニック。 |
|