ヴァンキッシュは、スポーツカーとGTを隔てる曖昧な境界線を走るクルマだ。別の角度から見れば、ヴァンキッシュをはじめ最新のアストンは、イギリスの良き伝統と最新の合理主義で巧みに表現し得ている。
 エンジンの味付けなど、その最たる部分だ。大きくスロットルを開けて加速するヴァンキッシュの咆哮は、まさに力感の塊そのもの。コクピットに充満するそれも、外から聞くそれも、その点だけならフェラーリV12をはるかに凌ぐ。いささか金属的な感触も含み、そのまま音量だけ増幅すればレーシングカーの叫びに聞こえないこともない。それがドライバーを刺戟して、必要以上に6速シーケンシャルMTをシフトし、高く低くの旋律を楽しませずにはおかない。
 ただし、やはり500ps級と比べてしまうと、額面466psが少し後れを取るのは仕方ないようだ。公道で個別に乗ればそんな差など感じる余地もないが、このように同時に乗り比べると、やはり違いはある。たとえばゼロから全開で発進し、マラネロやCL65AMGなら200km/hに到達できるポイントで、ヴァンキッシュは190km/hにとどまった。だからどうだと言われればそれまでだが、パワー信仰に凝り固まった一部のフリークには、やはり物足りない点にもなるだろう。
 その反面、最新のアストンV12は、これからのスーパーカーエンジンの方向性を強く示唆する成り立ちも持つ。これほどの高性能エンジンを白紙から開発するには膨大な手間と資金を要するが、フォードグループの一員であるアストンのような立場なら、基礎研究を省略し既成の優れた技術を応用できるからだ。このV12にも、フォードの2〜3リッター級デュラテックV6が、巧みに活かされている。それ自体は無味乾燥にも思えるフォードV6だが、燃焼効率や排気対策などまで考えれば秀作というべきなので、それを2基直列につなげば、このようなV12も可能になるはず。もちろんブロックやクランクをはじめ、現実の部品を組み合わせたのではなく専用設計だが、モジュラー的展開であることに変わりはない。これなら信頼性や耐久性の基礎データも豊富だから、少量生産の超高級車メーカーとしては助かる。
 ただしエンジン以外の部分については、ただ乗ればいいというものではなく、愛馬や愛犬を慈しむように接する必要があるという点に、やはりイギリスの伝統を思い出させるところがある。そんな気持ちのないドライバーにとっては単なる弱点だろうが、あのカルチャーを知る者なら、しばらくヴァンキッシュのステアリングを握っただけで勘どころを見抜き、胸に迫るものを感じるはずだ。
 それは、たとえば駆動系。全力での発進を試みても、専用設計のヨコハマAVSスポーツ(285/40ZR19)のグリップが勝るのか、マラネロのようには激しいホイールスピンが起きない。それに負けてクラッチが滑り、結果としてスムーズかつ最大効率で加速する。ただしその結果クラッチが過熱するので、それをセンサーで読み取ると同時にエンジン出力を大幅に引き下げ、メーター内に「セイノウテイカ」の警告が点灯する。クールダウンが終了して復活するまで、どんなに踏んでも4000rpmよりは吹けない。ブレーキも200km/h近くからABSを効かせての急制動を2回試みただけでパッドから多量の白煙を上げ、ややフェードする傾向がある。
 だからヴァンキッシュを楽しむには部分ごとの限界をしっかり理解し、その一歩手前で唄わせなければならない。ある意味で最も腕前を要求するクルマというより、それだけの気持ちのゆとりを持てぬ者を拒否するクルマなのだ。

Specification
■全長×全高×全幅=4670×1920×1330mm
■ホイールベース=2690mm
■車両重量=1890kg
■エンジン種類/排気量=V12DOHC48V/5935cc
■最高出力=466ps(345kW)/6800rpm
■最大トルク=54.6kg-m(535Nm)/5500rpm
■トランスミッション=6MT(シーケンシャル)
■サスペンション(F:R)=Wウイッシュボーン:Wウイッシュボーン
■ブレーキ(F:R)=Vディスク:Vディスク
■タイヤサイズ(F:R)=255/40ZR19:285/40ZR19
■東京標準現金価格=24,780,000円(アトランティックカーズ)
 

 
ヴァンキッシュが発表されたのは'01年。同社がフォード傘下に収まり、最初のコラボ作品がこのクルマだった。ボディにはアルミ押し出し材やカーボンコンポジットが多用されており、その成り立ちはほとんどピュアスポーツ。だが、それをあくまで包み隠しているところにこのクルマの価値がある。トランスミッションはシーケンシャルの6MT。デザインは現在ジャガーのチーフ・デザイナーを務めるイアン・カラムが担当した。



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