「最新型こそ最良」という評価がある一方、常に往年のモデルとスポーツ性が比較されてきたポルシェ911。
それが最も顕著で、かつシビアな意見も多かったのが996型だ。
では、本当に996の走りは物足りないのか?
ここでは2代前の964と比較してみた。

リポート|島下泰久|Y.Shimashita  フォト|赤松 孝|T.Akamatsu
取材協力=和田 玄氏



 ポルシェ911に、その生まれ年である1963年にちなみ、世界で1963台のみ設定された限定車、カレラ・アニバーサリーエディションは、911誕生40周年を記念するモデルである。同時に、この秋にも次期997型にバトンを渡す996型911のフィナーレを飾るものでもある。この996にて、本当の意味で初めてのフルモデルチェンジを行なった911は、それゆえに登場以来、ありとあらゆる部分で賛否両論を巻き起こしたが、それもいよいよ最後となれば、幾らかの感慨を抱かずにはいられないところだ。
 その感慨も後押しするのだろうか。ステアリングを握ると、このアニバーサリーエディション、これまで996ではあまり感じたことのなかった密度の濃い乗り味を堪能させてくれる。
 特に印象的なのは、スポーツシャシーとロッキングファクター40%のLSD、そしてポリッシュドアルミホイールと組み合わされた18インチタイヤがもたらすフットワークだ。乗り心地はハッキリ言って粗く、始終小刻みな突き上げに襲われるが、その代わりに操作に対する反応は俄然引き締まっており、キレ味の鋭さを感じさせる。エンジンも、ノーマル・カレラ比25ps増しの345psまで増強されているから、瞬間瞬間のレスポンスが実にシャープでダイレクトに感じられるのである。
 正直、限られた試乗時間の間には、持てる力の半分、いや四分の一も引き出すことができなかった。悔しい。でも、その悔しさは決してイヤなものじゃないのだ。というのも僕は、996は一部のモデルを除いて、速くはあっても洗練という言葉のもとに強烈な走りの個性、要は“クセ”が薄まってしまったと感じていた。特に、それは日常域において。それがこのアニバーサリーエディションは、そうした走りの触感へのこだわり、やっぱりポルシェじゃなきゃという、それこそクセになりそうな部分を、ギュッと色濃く味わわせてくれたからだ。
 それに較べると、996以前の911は、あまりにも生々しいというかあけすけというか、その野性を隠そうとしていなかったのだな、と改めて思う。そして、その素手で触れることを一瞬躊躇してしまうほどの生の感触は、今でも色褪せることなく魅力を放ち続けていることも確かである。今回の撮影車両はRSだが、964あたりなら普通のカレラでも、そうした刺激を十分すぎるほど味わえる。
 ポルシェの抱えるジレンマは、まさにそこにある。洗練されて荒々しさが消え、独自の流儀を強要することもなくなった、普通に完成度の高いスポーツカーなら、今や選択肢はたくさんある。別に911じゃなくたっていいのだ。それこそ、違いが視線の高さだけならカイエンだっていい。911の売れ行きが世界的に今ひとつ芳しくないのは、つまりそういう理由なんじゃないだろうか。
 今のポルシェは、そういった剥き出しの刺激のようなものはGT3などの特別なモデルに任せ、ノーマルの911は、より快適でより速い、GTカー的な要素を強めている。それは進化と言えるのだろうが、結果としてノーマルの911のオーラを弱める結果となっているのも事実だろう。次期997、話題は今のところ、そのルックスに集中しているが、一番望まれるのは、やはりそうしたオーラを取り戻すことのはずだ。そして、このアニバーサリーエディションを見るに、996型の最後の最後になって、あるいはポルシェも同じように感じているのかもしれないと僕には思えたのである。
 新旧2台の911を改めて乗り較べる機会を得て、そんなポルシェの抱える問題、そして明るい未来の兆しを、まざまざと見ることができた。そんな気がしている。



911 ANNIVERSARY EDITIONのエキゾーストノート
911 CARRERA RSのエキゾーストノート
 
<シャープな走りを披露する、ノーマル系996の集大成>
911の生誕40周年を記念して登場したアニバーサリー・エディションは、魅力的な装備を満載した限定モデル。エンジンは25psのエクストラを実現するパイパフォーマンスキットを装着。エクステリアは、フロントがカレラ4Sと同じ「ターボ顔」になり、ボディカラーもカレラGT専用色の「GTシルバー」となる。サスペンションもスポーツサスが標準。その走りは、ノーマルよりシャープで空冷911の切れ味を彷彿とさせる。
<剥き身の真剣のごとき切れ味は、いまだに健在>
熱心なポルシェファンの間で、いまだに高い人気を誇る2世代前の964型。その中でも、今回の取材車であるカレラRSは別格のスポーツ性を誇るモデル。現代の基準からすれば、走りはスパルタンと表現するのが相応しく、もはや日常の使用には適さないが、それだけに刺激は十二分。ノーマルより軽量化されたコンパクトボディや鋭い吹け上がりを披露するエンジン、時に手強い操縦性は荒々しいが魅力的なのも事実だ。
 
PORSCHE
 
911 ANNIVERSARY EDITION
911 CARRERA RS ('92)
■全長/全幅/全高(mm)
4430/1770/1305
4250/1650/1270
■ホイールベース(mm)
2350
2270
■車両重量(kg)
1420
1230
■エンジン種類
水平対向6DOHC24V
水平対向6SOHC 12V
■排気量(cc)
3595
3600
■最高出力(ps(kW)/rpm)
345(254)/6800
260(191)/6100
■最大トルク(kg-m(Nm)/rpm)
37.8(370)/4250
32.0(314)/5000
■トランスミッション
6MT
5MT
■サスペンション(F:R)
ストラット:
マルチリンク
ストラット:
セミトレーリングアーム
■ブレーキ(F:R)
Vディスク:Vディスク
Vディスク:Vディスク
■タイヤ(ホイール)
F:225/40ZR18
R:285/30ZR18
F:205/50ZR17
R:255/40ZR17
■東京標準現金価格
¥13,251,000
¥13,300,000
(税別・当時)
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※上記スペックは本誌発売当時の値です。
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