多くのスーパーカーメーカーが火花を散らすパワーウォーズ。
その現在の覇者といえるのが、ここに登場するCL65AMGだ。
V12ツインターボがもたらす1000Nmというトルクは、現時点でライバルをまったく寄せ付けない。
この狂気の前には、フェラーリもランボルギーニも、もはや道を譲るしかない!

リポート|斎藤 聡|S.Saito  フォト|郡大二郎|D.Kori


「スピリタス」というウォッカをご存知だろうか。それは500ミリリッターの小ぶりなボトルに入っており、ボトルネックが注射で使うアンプルのようなカタチをしているのだが、それほど特徴的というわけではない。どちらかといえば、それと知らなければ気にも留めないような類のボトルだ。しかしこの酒には、ほかの酒には決してないブッチギリの特徴がある。
 実は、アルコール度数が96度(!)もあるのだ。いやもう、それは酒というより純粋のアルコールに近い。ショットグラスに半分ほど酒を満たし、舐めた瞬間、口の周りがスーッと冷たくなる。そう、アルコール消毒と同じ感覚だ。
 勇気を奮い起こして口に含むと、激しくむせると同時に舌にはビリビリと鋭い痛みが走り、感覚がなくなる。こうなったらもう意地だ。止めときゃいいのにショットグラスを傾けゴクッと飲み下すと、当たり前だがノドが焼けた。そしてその後の30分は、声が出なくなってしまったのだ。
 前振りが長くなったが、CL65AMGの1000Nmというトルクを例えるなら、それはまさにスピリタスそのものだ。アクセルをせいぜい1〜2cmほどそっと踏み込むだけなら、「結構パワーのあるクルマだな」といった程度の印象にとどまる。だが、そこからアクセルをグッと踏み込むと、ほんの一瞬トルコンがトルクを溜め込むようなタイムラグがあり、次の瞬間、2tオーバーのボディが猛烈な加速を始めるのだ。
 ESPの制御がすぐさま介入するから、激しいホイールスピンやタイヤスモークに包まれることはないが、だからこそバツが悪い。頭の良くなったESPは、ご主人様のアクセル操作から運転の意図を推し量り(つまり全開加速だと判断するわけだ)、リア275/35R19サイズのタイヤの、駆動グリップ力の限界ギリギリまでを使い、可能な限りのトルクを路面に押しつけるのだ。その結果、推定1Gはあろうかという加速Gがアクセルを緩めるまで続く。
 CL65AMGとは、そういうクルマだ。CL600の5.5リッターV12ツインターボでも500ps/81.6kg-mという途方もないパワー&トルクを発揮するが、AMGはそれに飽き足らず、独自のチューンによって、なんと612ps/102kg-mを獲得している。
 驚かされるのは、これが無理矢理捻り出した瞬間的なピークパワーではなく、612psは4800〜5100rpmの間で、最大トルクにいたっては2000〜4000rpmという低回転域の、しかも驚くほど広いレンジで発揮されることだ。2000rpmといえばほぼストール回転だから、文字通りアクセルを踏み込んだ次の瞬間から102kg-m=1000Nmが溢れ出るのだ。
 果たして、こんなクルマがまともに走るのか? 誰もがきっとそう思うに違いない。そしてその答えは――まともに走ろうとしてはいけない。それが正解である。


 CL65AMGのシャシーは、想像するより遥かにシャンとしている。チューンされたサスに張りがあり、ボディをしっかりと支えてくれる。しかも超ワイドタイヤを履くわりに乗り心地に硬さがなく、普通に走っているときの乗り心地はマイルドといっていいほどだ。ロールの過渡特性も良好で、スピード、剛性ともにしっかりとコントロールされている。このあたりはABC(アクティブボディコントロール)と協調制御させながら、サスペンション全体のセッティングを行なっているのだろう。
 安定性といえば、ブレーキも強烈だ。フロントキャリパーは8ポットピストン、リアも4ポットが付く。利きはさすがに強力で、超高速域からでも安定した制動力を発揮してくれるし、減速中のペダルタッチも優秀だ。ただし、2トンの質量を減速させるにはそれなりの制動距離は必要。ブレーキをドンと蹴飛ばしても、さすがにその瞬間からレスポンスよく減速を始めるというわけにはいかない。
 では、ワインディングではどうだったか。これも予想以上の完成度に驚かされた。ESPが足かせになり満足にコーナーを攻められないだろうと思っていたのだが、これがまったくの勘違いだった。
 操縦性は、フロント245/40R19、リア275/35R19というタイヤの前後バランスだから、基本的にはアンダー傾向が強い。しかし曲がらないのではなく、V12というエンジンをノーズに積みながらも回頭性は意外にいい。ステアリングを切り出すと、スムーズにノーズがインに入る。そしてコーナリング中も、それなりの旋回スピードをキープできるのだ。
 ESPの介入は、遅めかつ控えめだ。これは制御が年々緻密になっていることも関係しているのだろうが、露骨にパワーを絞ってブレーキをかけ、減速方向にもって行くようなことはしない。コーナー立ち上がりでアクセルをグッと踏み込むと……さすがに全開にはできないものの、タイヤのグリップの範囲内ギリギリで、感覚的にはかなり積極的にトルクをタイヤに伝えてくれる。
 そしてステアリングが直進を向き、横Gが消えた瞬間、612ps/102kg-mが火を噴く。いや、噴くまでもなく炸裂する。コーナーとコーナーをつなぐ直線は、まるでワープしたかのように瞬時に走り切ってしまう。そしてそれが急勾配の直線でも、まるで平坦路であるかのように加速して行くのだ。しかもその加速Gがまた尋常ではなく、不用意に加速すると、一瞬視界がグニャリと歪み、脳ミソが後ろに寄ってしまう。
 スポーツカーのように軽快機敏にとはいかないが、CL65AMGは圧倒的なパワーに振り回されることなく、メルセデス流にキチンと律されたクルマといえよう。ただし、まともにこのクルマと対峙しようとすると、クルマより先に人間がダメになってしまうから気をつけた方がいい。実際、ボクも前後Gで頭がクラクラして、本当に気分が悪くなってしまったのだ。
 ところで、冒頭のスピリタスだが、本来は必要な濃さに炭酸や果汁などで希釈して飲むのが正しい嗜み方。それが大人の分別というものだ。決してポーランド人の挑発に乗ってはいけない。このCL65AMGも、有り余るトルクから必要な分だけアクセルを踏み込むのが、正しい乗り方なのだ。
 
  CL600の5.5リッターV12ツインターボをベースに排気量を6リッターに拡大、そこに612ps/4800〜5100rpm、102kg-m/2000〜4000rpmが漲る。カバーはリアルカーボン製。
「V12 BITURBO」のエンブレムとともにボディサイドを飾るのは、マルチピースのAMG製アルミホイール。ピアスボルトと、リムとスポークの微妙な2トーンが迫力。タイヤサイズはフロント245/40R19、リア275/35R19。
  前後バンパーとサイドシルのエアロパーツなど、エクステリアの大部分はCL55AMGと共通。試乗車のボディカラーは通常よりメタリックの効いた「ミスティックホワイト」だ。
  インテリアもCL55AMGとほぼ共通。さすがに、このボディサイズともなるとリアシートにも余裕があり、大人4人が快適に移動できるスペースを持つ。
  インパネに奢られたレザーやネオンの元で怪しく輝くストーンパネルなど、インテリアにはまさに贅が尽くされる。これが1000Nmを司る、選ばれし者のコクピットだ。
CL65AMGには「AMGカスタムオーダープラン」が適用され、ボディカラーやトリムなどを豊富なバリエーションからチョイスできる。試乗車のインテリアパネルは「ストーン」で、これは¥787,500(税込)のオプション。スピードメーターは上限360km/hまで刻まれる。
  ESPを解除するとご覧の通り。この溢れんばかりのパワーを、ESPがギリギリのところでコントロールしているのだ。このCL65AMG、0→100km/h加速はわずか4.4秒。
 
MERCEDES-BENZ CL65 AMG
■全長/全幅/全高(mm)
4993/1857/1398
■ホイールベース(mm)
2885
■トレッド(前/後)(mm)
1581/1583
■車両重量(kg)
2155
■エンジン種類
V12SOHC36V+ツインターボ
■排気量(cc)
5980
■最高出力(ps(kW)/rpm)
612(450)/4800-5100
■最大トルク(kg-m(Nm)/rpm)
102(1000)/2000-4000
■トランスミッション
5AT
■サスペンション(F:R)
4リンク/コイル:マルチリンク/コイル
■ブレーキ(F:R)
Vディスク:Vディスク
■タイヤ(ホイール)
F:245/40R19(8.5J) R:275/35R19(9J)
■東京標準現金価格
¥26,355,000
問い合わせ先
※上記スペックは本誌発売当時の値です。



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