アルピナはBMW7シリーズをベースとしたフラッグシップであるB7に、V型12気筒エンジンではなく、V型8気筒にスーパーチャージャーを組み合わせるという、ある意味、意外な選択を披露した。
しかし、B7という名称復活の意味を考えれば、その答えは自ずと見えてくるのである。

リポート|萩原秀輝|H.Hagihara  フォト|郡大二郎|D.Kori


 '02年の夏にアルピナの技術担当重役であるギュンター・メチア氏が来日したとき、E65型をベースにしたモデルを開発中であることを明らかにしていた。そのエンジンは、なんとV型12気筒エンジンではなく、スーパーチャージャーを組み合わせるという話だった。つまり'78年にデビューし、E12型5シリーズに直列6気筒とターボチャージャーを組み合わせたエンジンを搭載していたB7系の再来ということになる。B7系は、最終的にE28型5シリーズをベースにしたB7/3まで進化したが、それ以降、アルピナは過給器を用いることがなかった。
 そして、'03年のジュネーブ・ショーで、アルピナはV型8気筒エンジンを積むE65型7シリーズをベースにスーパーチャージャーを組み合わせたモデルを発表。その名はまさしくB7であった。エンジンは、745iが積むN62型と同様に排気量が4398ccとなる。こう書くとアフターマーケットにありがちなスーパーチャージャーキットを組み合わせただけのように思えるが、アルピナがそうした安易な開発をするはずがない。実際に、コンロッドからクランクシャフトに至るまで、B7には専用のパーツが用いられる。
 つまり、他のモデルと同様にアルピナのために設計開発されたパーツがミュンヘン近郊のブッフローエのファクトリーに集められ、エンジニアによって一基ずつ手作業で組み上げられているわけだ。
 しかも、N62型はバルブトロニックを採用するだけに、スーパーチャージャーとのマッチングは簡単ではなかったであろう。にもかかわらず、バルブトロニックの機能は完全に生かされているという。したがって、エンジン制御ユニットもアルピナがB7用に開発したことになる。さらにいえば、アルピナはいまやブラックボックスと化しているエンジン制御ユニットを開けるための鍵を、BMWから与えられているといってもいい。アルピナとBMWの緊密な関係なしに、このプロジェクトは成功しなかったに違いないのだ。


 実際に、B7はBMWがその価値を認めるだけの走りを示す。最高出力は500psに達するが、スペックから想像するのとは異なりきわめて紳士的だ。アクセルを少なめに踏んでいる限り、745iの走りと大差ない。それでも十分な力強さが得られるため、市街地では余計な気を遣わずに済む。
 B7が本領を発揮するのは、アクセルをもう少しだけ踏み込みつつエンジンが2000rpm台の後半に達してからだ。それでも、いきなりトルクが立ち上がったりはしない。エンジン回転数の上昇に対し、あくまで素直にトルクが増す。そして、4250rpmで最大トルクの71.4kg-mを獲得し、それを5000rpm台まで維持。その先でもトルクは10%ほどしか落ち込まないだけに、力強さがパワーに置き換えられ5500rpmで500psを実感することになる。いわば、スーパーチャージャーによって強引にトルクを引き出そうとするのではなく、あたかも自然吸気のままで排気量が6リッターあたりまで拡大したような、洗練されたエンジン特性を獲得しているのだ。なおかつ、アルピナのエンジンらしく高回転域での吹け上がりの鋭さも備えていた。
 そうしたエンジン特性を存分に楽しめるよう、パワートレインも専用の設定となる。最終減速比は745iよりも10%ほど低くなっているので、日本の速域でも高回転域を生かした加速が繰り返し楽しめる。6速ATのシフト制御も変更されている。Dレンジにホールドしているときでも、アルピナがZFと共同開発したスウィッチ・トロニックによりステアリングの裏側にあるスイッチ・ボタン操作により、即座にマニュアルモードに切り替わる。745iのように、あらかじめシフトモードスイッチを操作してマニュアルモードに切り替えておく必要はない。スイッチ・ボタンも、ステアリングの裏表ではなく左/右でシフトダウン/アップが可能だ。
 もちろん、シャシーもB7専用の設定となる。タイヤはフロントが245/35ZR21で、リアに285/30ZR21を履きホイールはアルピナ・クラシックを組み合わせる。ブレーキは、本国仕様の760iと同サイズであり、745iと比べるとローターが大径になるとともにフロントのキャリパーは1ピストンから2ピストンに強化されている。今回の試乗でもかなり過酷なブレーキングを繰り返し、2tに迫るボディから3桁の速度を一気に抜き取ったがフェードの兆候は示さなかった。
 サスペンションは、専用のスプリングを用いてはいるが仕様はシンプルだ。可変スタビライザーのダイナミックドライブや、可変ダンパーのEDCはオプションとなる。それでも、車高はフロントで15mm、リアで10mm下がっているので、一連のアルピナと同様に前下がりの姿勢となる。エアロパーツも標準装備しているので、かなり挑戦的なスタイリングとなるが、エンジン特性と同様に乗り心地も紳士的であり洗練された身のこなしを示す。それを象徴するのが、あえてリアに採用されているセルフレベリング機能を持つエアサスペンションだ。
 この組み合わせは、B7の位置付けを物語っている。B7がドライバーズカーであることに違いはないが、リアの乗員に対する配慮も忘れていないのだ。そのため、極端なロープロファイルタイヤを履くにもかかわらず、接地感の硬さを意識することがない。タイヤとホイールは、たぶん一人で持ち上げるのが困難なほど重いはずだが、荒れた路面を走ったときにバネ下がドタドタ暴れるような不快感とは無縁でいられる。ステアリングを握るドライバーにとっても、路面のわだちは進路を乱す不満の原因とはならないはずだ。
 したがって、B7は上質な最高級サルーンとしての価値も備えているということだ。それにふさわしい装備も充実している。アルピナは日本仕様を設定しているので、ナビゲーションシステムやハンズフリーテレホン、さらにはルームミラーと一体になったETC車載機まで標準装備している。いうまでもなく、インテリアはアルピナ専用のメープル材を用いたウッドトリムや、ブルーとグリーンのアルピナ色があしらわれたレザーで覆われている。もちろん、その雰囲気を味わうだけでも満足感が溢れ出すだろう。
 
バルブトロニック採用の4.4リッターユニットにスーパーチャージャーを組み合わせる、という技術的ハードルを見事クリア。バルブ開度とブースト圧を変えてチャージングを制御、500ps/71.4kg-mを発揮する。
  フロントのバンパースポイラーなど、エアロパーツを組み合わせることでスクエアな7シリーズのフォルムがさらに強調される。その存在感は、並み居るプレステージ・サルーンの中にあっても際立つほど。
  リアスポイラーは7シリーズのトランクリッド形状を引き立たせるボクシーなデザインで、高速域で強力なダウンフォースを発生させる。マフラーエンドは2本出し。
  21インチホイールは、フィンスポークタイプの「アルピナ・クラシック」。タイヤはミシュラン・パイロットスポーツ2、サイズはフロント245/35ZR21、リア285/30ZR21。
  スーパーチャージャーを備えるとはいえピーキーな素振りは微塵も見せず、低回転域から高回転域までトルクとパワーの出方はごく自然。当然その速さは異次元の世界だが、アルピナらしいしなやかな乗り味は失わない。
 
ALPINA B7 Supercharge
■全長/全幅/全高(mm)
5029/1902/1477
■ホイールベース(mm)
2990
■トレッド(前/後)(mm)
1580/1576
■車両重量(kg)
1970
■エンジン種類
V8DOHC 32V+SC
■排気量(cc)
4398
■最高出力(ps(kW)/rpm)
500(368)/5500
■最大トルク(kg-m(Nm)/rpm)
71.4(700)/4250
■トランスミッション
6AT
■サスペンション(F:R)
ストラット/コイル:インテグラルアーム/コイル
■ブレーキ(F:R)
Vディスク:Vディスク
■タイヤ(ホイール)
F:245/35ZR21(9J) R:285/30ZR21(10.5J)
■東京標準現金価格
¥19,950,000
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※上記スペックは本誌発売当時の値です。
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