アウディとBMW。
ともに技術による革新を謳うメーカーだけに、そのフラッグシップモデルとなるA8と7シリーズには、ハイテク装備が満載される。
その在り方は、ある意味でクルマの未来を予感させるものでもあるが、果たして、どちらのメーカーが時代の先端を走っているのだろうか――

リポート|熊倉重春|S.Kumakura  フォト|郡大二郎|D.Kori


 今、アウディA8やBMW7シリーズを選ぶのは、次の時代に向けての提案に耳を傾けることを意味する。それを強く意識せず、ただ高級な快速セダンとして接したのでは、わざわざドブに金を捨てるようなものだ。
 おもしろいのは、この2台がきわめて似通っていることだ。その共通項は「クルマのロボット化」にある。クルマ自身が多くの情報を自律的に分析判断し、その瞬間ごとに最適と思われる走行状態を作り出すとさえいえる。その演出において7シリーズがA8に勝ると結論付けるのは、先進技術の要塞を自認するアウディ派にとって不本意なことに違いない。しかし、ある些細な一点を指摘することによって、「ロボ・カー対決」は7シリーズの勝利としたい。
 両車がいかにロボ・カーであるかは、メカニズムを一瞥しただけで明らかだ。どちらも全面電子制御のエアサスペンションを持ち、ほぼあらゆる状況に対し最大限の安定性を提供してくれてしまう。
 そのうえ7シリーズは、別個に電子制御による可変スタビライザーを装備して、コーナーでのロールに抵抗する任務からエアサスペンションを解放し、瞬間的な乗り心地の悪化まで排除した。もちろん両車ともエンジンからトランスミッション、さらにはブレーキまですべて統合制御するネットワークを持つ。ここまで来れば、もはや単独事故など起こす方が難しい。
 いや、ロボ・カーの場合、見えない部分の技術は根本的な問題ではない。これに人間がどう接するのか、いわばヒューマン-マシン・インターフェイスに焦点を合わせねばならない。ここに「運転」なるものの本質があるからだ。
 もともと走って結果を出すのはクルマ自身であって、人間であるドライバーは指令を入力する立場という関係は、歴史の一番最初から変わっていない。これらをひっくるめて生命体とすれば、クルマが肉体でドライバーが脳ということになる。そのうえでクルマがどのようにでも動く能力を獲得したばかりか、周囲の状況を知る感覚器官まで備えてしまった今、ドライバーがどこまで脳のみになれるかが問われている。つまり運転とは手足の運動ではなく、ただただ「知」の行為だというわけだ。
 ここで特に指摘しておきたいのは、あのBMWともあろうものが、こんなに思い切ってロボ・カー化に踏み出したという事実だ。もともと何もかもクルマ自身による解決を目指し、人間の能力など微塵も信じていないアウディならわかる。しかしBMWは、極論すれば素手と素足の操縦感覚をどこまで守れるかにこだわる、ある意味コチコチの保守派と目されて来たはず。それがアクティブ・スタビライザーや、5シリーズで採用したアクティブ・ステアリングなどクルマによる自律制御に走ったのは事件だ。これでクルマの未来像がある程度は決まったともいえる。


 それを象徴するのが7シリーズのコクピットだ。すでに何回も紹介されて来た通り、ここでは多くのコントロール類が明確に二分されていて、走る機能に属するもののほとんどがステアリングホイール周り、すなわちドライバーの肩幅の範囲に集められ、一方エアコンやオーディオなどアメニティに属するものはダッシュ中央部に集約されている。それらを集中制御するのがコンソール上にある大きなダイヤルで、使用感でも視覚的にも、これが7シリーズの何であるかを象徴している。
 実際、7シリーズに乗ってみると、ドライバーの動作としてはダラッとステアリングに両手を置いておく以外、何もすることがない。その代わりステアリングホイール上やコラムにある各種のスイッチの位置と機能はしっかり頭に叩き込んでおく必要がある。もちろん、ステアリングを回しペダルを踏むにしても、その他はパソコンを操作する感覚に近い。
 これは大筋においてA8にも共通する。それも当然といえば当然で、これらの機能を陰で支える多くの部品やノウハウの源が同じということも多いからだ。完成車においてはアウディなりBMWなりの命名が行なわれているものの、実際にはいち早くグローバル化を進めた巨大部品メーカー・ネットワークが、その要所要所を押さえているともいえる。
 そのうえで、A8のコンソールに位置するダイヤルが受け持つ制御の項目は7シリーズより多岐に渡る面もある。なのにロボ・カー度の演出面で敗れざるを得ないのは、ここまでやったのに、あたかも20世紀的価値観の象徴のごとく、コンソールの一等地をシフトレバーが占めているからだ。これさえなければ、ステアリングから自然に手を下ろした位置にダイヤルを配置できたはず。現状では大きく肘を引かなければダイヤルに届かないので、まるで重要ではない装備として扱われているようだ。
 もちろんA8はステアリング部にマニュアル変速用のパドルを持つから、あとは小さなレバーを7シリーズやプリウスのようにコラムかダッシュボードに配置すれば、シフトレバーなど簡単になくせる。たったこれだけのことだが、どれほど真剣に次世代ドライビングフォームを考えたかの点で7シリーズに及ばないのは事実だ。
 もちろんA8も、総アルミボディの率先開発など、根本の部分で次世代への提案を叫んではいる。それに対してボディ前半部だけアルミ化することにより、フロントエンジン車のノーズヘビーを修正しようとする現行BMW5シリーズの試みは興味深い。アルミの軽さが鉄の重さにも意味を与えたことになるからだ。声高に次世代を叫ばないように見せながら、ミュンヘンも着々と手を打っているのだ。これを突き放すような反撃を、ぜひともアウディには期待しておきたい。
 
  アルミを用いることで軽量化と高剛性を両立するスペースフレーム構造のボディ「ASF」や、電子制御により走行状態に応じて最適にコントロールされるアダプティブ・エアサスペンション採用など、最先端の技術が集約されるアウディのフラッグシップ。現状で日本仕様にラインナップされるのは、4.2リッターから335ps/6500rpm&43.8kg-m/3500rpmを発揮するV8DOHC40Vユニット搭載の4.2クワトロのみ。ミッションは6速ATを組み合わせる。
  新世代BMWの第一弾として'01年に登場した現行7シリーズは、デザイン、機能性、テクノロジーなど、あらゆる面でBMWの革新性を象徴する存在。とくに、それ以降のモデルも採用している「iDrive」という操作理念と操作システムは、ドライバーの操作だけでなく、クルマのインテリアデザインに対する概念も変えるほどのインパクトがあった。試乗車は333ps/6100rpm&45.9kg-m/3600rpmを発揮する4.4リッターV8DOHC32V搭載の745i。
 
AUDI A8 4.2quattro
BMW 745i
■全長/全幅/全高(mm)
5055/1895/1450
5030/1900/1490
■ホイールベース(mm)
2945
2990
■車両重量(kg)
1910
1950
■エンジン種類
V8DOHC40V
V8DOHC32V
■排気量(cc)
4172
4398
■最高出力(ps(kW)/rpm)
335(246)/6500
333(245)/6100
■最大トルク(kg-m(Nm)/rpm)
43.8(430)/3500
45.9(450)/3600
■トランスミッション
6AT
6AT
■サスペンション(F:R)
4リンク:Wウィッシュボーン
ストラット:インテグラルアーム
■ブレーキ(F:R)
Vディスク:Vディスク
Vディスク:Vディスク
■タイヤサイズ
255/40R19
245/50R18
■東京標準現金価格
¥10,395,000
¥10,447,500
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※上記スペックは本誌発売当時の値、価格は税込み価格です。
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