サイズ的な制約が緩いからデザイン的に遊ぶことができる。
そして価格的な縛りもそれほどきつくないがゆえに、
技術的な新機軸を投入しやすい。
だからアッパーミドルクラスのセダンには、
各メーカーのアイデンティティが色濃く反映されている。
ここでは同セグメントの3リッタークラス6台を集め、
各々が持つ抗しがたい魅力を紐解いてみる。

リポート|島下泰久|Y.Shimashita フォト|郡大二郎|D.Kori

 アッパーミドルクラスのサルーンはおそらく、どのメーカーにとっても、もっとも力の入るカテゴリーであるに違いない。それより下のセグメントに較べると、サイズやパフォーマンスの絶対値に余裕がある分、デザインや走りの味付けへの縛りは少ないだろうし、車両価格を考えれば、新技術も投入しやすいはず。つまり、ブランドの個性を前面に押し出して、腕を振るう余地が大きいのである。
 ということは、このセグメントを見渡せば、それぞれのブランドが目指すクルマ作りの、妥協のない姿がクリアに見えてくるといえそうだ。そこで、ここではセグメントを代表する6台のサルーンに一気に試乗して、それを浮き彫りにしてみたい。
 まず乗り込んだのは、メルセデス・ベンツE320だ。
 このアッパーミドルクラスにおいては、Eクラスが絶対的なスタンダードである。そういい切ってしまっても、おそらく誰にも反論の余地はないはずである。
 そうした存在でありながら、Eクラスは知っての通り、先代で思いきった冒険に挑んだ。理由は様々あれど、屋台骨であるEクラスを、あれほどまでに大胆に生まれ変わらせ、そしてそれを見事に成功させたメルセデスの底力には、まったくもって恐れ入ってしまう。そして逆説的だが、それができるからこそEクラスは、というかメルセデスは、現在の地位にあることも、また確かだろう。
 現行モデルは、外観に関してはそんな先代のイメージを踏襲しつつ洗練度を高めたに留まるのに対して、インテリア、特に運転席からの眺めは大きく変わった。ダッシュボードがスッキリとした柔らかなデザインへと一新され、開放的でフレンドリーな雰囲気とされているのだ。そこには、かつての運転させていただく≠ゥのような取っ付きにくさはない。これは乗り手にとっては、あるいは先代以上に大きな変化かもしれない。
 ただし、ズラリ並んだスイッチ類は使い勝手がいまひとつ。また、後席バックレストの傾斜が強まり、トランクスルーと引き換えにクッションの密度感が薄まってしまったのも残念なところではある。
 走りっぷりは懐が深く、そしてその懐の深さを、類い稀な安心感として伝えてくるのが持ち味だ。操る歓びは大きくない。しかし、そこには絶対に裏切らないであろう得もいわれぬ包まれ感がある。そしてそれは、全車標準装備とされたSBCなど、徹底した安全へのこだわりによって、しかと裏付けされてもいるのだ。
 見た目にしろ走りにしろ、かつてのように己が流儀を強制してくるのではなく、優しく諭すように正しい方向に導く。それがいまのメルセデスなのである。


 アピアランスからして、変革への意思を隠そうとしないという意味では、キャデラックCTSもそうだ。新しいその姿、目に馴染むには時間がかかったが、最新のXLRやSRXなどを見て、ようやく表現したい世界が明瞭に見えてきた気がする。
 内装も随分と攻めている。ドライバーオリエンテッドという方法論は新しくはないし、見た目の品質も高いとはいえないが、従来のキャデラックとは明らかに異なる若々しさがあるのは確かだ。ウインカーレバーが右側に移されるなど、日本仕様としての作り込みが丁寧なのも好感が持てる。
 CTSは、走りの面でもそれまでの殻を破っている。驚くのは、このCTSのために新しいFRのプラットフォームを仕立てていることだ。競合するメルセデスやBMWと伍して戦うには、FRの走り、そして記号性が不可欠だという判断が、そこにはあるのだろう。
 実際、ハンドリングには相当なこだわりが感じられる。ステアリングのリニアな手応えとレスポンス、高いボディ剛性に裏打ちされたサスペンションの無駄のない動きは、スポーツセダンと呼んでもいいほどだ。ただし、それと引き換えの、しなやかさを欠いた乗り心地は、キャデラック・ブランドへの期待値を下回るといわざるを得ないが。
 デザインにしても走りにしても、ブランドの生まれ変わりへの意欲が十分に感じられるCTS。正直、まだ原石だとは思うが、磨き甲斐は十分にあるように思う。そこかしこにキラリ輝くものが、すでにいくつも見えているのである。
 これら革新派に対して、ブランドの伝統と格式を変わらず受け継ぐ保守本流の存在が、ジャガーSタイプだ。そのスタイリング、ウッドとレザーでまとめられたインテリアは、まさにお約束。ルーフが低く、そのぶんシート位置が下げられて、両足を前に投げ出すかたちになるシートポジションも、往年のジャガーらしい雰囲気だ。
 お馴染みJゲートの6速ATをDレンジに入れて走り出すと、そんなジャガーのタッチが、より鮮明になる。乗り心地はかなりソフト。しかし、このはんなりとした感触にも関わらず、いざ攻め込むと身のこなしはむしろ機敏といえるほどで、知らず知らずのうちに昂揚させられてしまう。真綿のような手触りでいて、切れ味は抜群にシャープ。この走りこそ、Sタイプの真骨頂である。
 低く垂れ下がったルーフラインなどのおかげで、後席は余裕に乏しいし、トランクも広いとはいえないのだが、このタッチに魅せられた人にとっては、それらは大した問題ではないのだろう。そういう意味では、ジャガーの存在感は、まさに孤高のものといえる。
 



後にXLRやSRXへと受け継がれた、新世代キャデラック・デザインの口火を切ったのがCTS。特にエクステリアの斬新さでは、BMW5シリーズと双璧をなす存在といえる。CTSを機に新開発されたプラットフォームは、ヨーロッパの強豪に真っ向勝負を挑むのだという決意を感じさせる秀逸な出来映え。乗り味はキャデラックというブランドイメージから想像するよりもスポーティで、良くも悪くもそれがCTSのキャラクターとなっている。車種構成は2.6(4,950,000円)と今回の3.2の2機種で、エンジンはともにV6DOHCを搭載する。日本仕様の作り込みは徹底しており、ウインカーレバーが右に移設してある点などは感心させられる。
 
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