スポーツカーでありながら実用性もハイレベル、というのはジャーマン・スポーツの良き伝統だが、その代表格といえばポルシェ911。特にカレラ4Sカブリオレともなると、まさに万能。
全方位に渡る徹底した作りは、ある種先鋭的ですらある。
だが、オープンモデルの世界は機能だけで語れないのも事実。
そこで古典的テイストが光るXKRと比較してみたのだが……。

リポート|島下泰久|Y.Shimashita  フォト|松本高好|T.Matsumoto


 本国ではすでにターボ・カブリオレもデビューを果たしているが、とりあえず今、日本で買える911の中で、もっとも万能という言葉に近いのが、このカレラ4Sカブリオレである。天候を選ばず最大限のパフォーマンスを発揮するフルタイム4WDに5速ティプトロニックを組み合わせ、ターボ譲りのシャシーやワイドなフェンダーが付いた上に、トップがワンタッチで開閉できて、しかも911なのだ。これ以上、一体何を望むのかという話である。
 こんな風に、可能な限りの要素をすべて詰め込んでみたというクルマは、他にもないわけじゃない。だが、カレラ4Sカブリオレがそれらと決定的に違うのは、すべての要素で完璧が期されているということだ。オープンボディはカッチリしており、これまで必ず付きまとったハンドリングに与えるネガもほとんど看取できず、エンジンは変わらず繊細にして豪放。どこをとっても、911に期待される要素を満たしている。
 一方、共通点はあるいは4座オープンというだけ。性格はまるで正反対の情緒派とでもいえそうな存在がジャガーXKRである。こちら、ないものはないと割り切る一方、あるものは過剰なほどある。特にそのインテリアの豊潤な色気は、さしもの911も敵うところではない。おまけにXKRだから、4.2リッターV8にスーパーチャージャーまで装着して、のけぞるような加速力まで得ているのだ。その独特のサウンド、潤沢なトルクは、まさに圧巻。おまけにシャシーはとても古典的だから、低い次元で熱いのと冷たいの、両方の汗がかけるオマケもつく。
 こんなXKRと較べると、カレラ4Sカブリオレは、正直なところ物足りない部分もある。それは車検証数値で1660kgと、ノーマル・カレラより200kg近く増えた車重に拠るところが大きそうだが、万能性の代償ならば、それも仕方がないか。ただしシャシーの懐の深さは一枚も二枚も上手で、特に何も工夫しなくても、よく曲がり、よく止まる。
 そんなカレラ4Sカブリオレだけに、日常の使用はまったく苦もなくこなせる。というか、これはそうすべきクルマだ。もちろんXKRだって、普段使いはできないことではないが、するべきことでもないだろう。そう考えると、911の後席が、荷物置き場であるにせよ実用性のためだとすれば、XKRのそれは優雅さを演出する小道具でしかないといえそうだ。
 それでいて、スイッチひとつで非日常の領域へとワープできること。まさにこれこそが、カレラ4Sカブリオレの何よりの魅力である。普段見慣れた景色でも、トップを開け放てば、すべてが違って見えてくる。
 これにはサウンドの効果も大きい。トップを開け放つと、今や静かな水冷フラット6のサウンドが、風とともに、よりダイレクトに耳へと届き、さらなるアクセルの踏み込みを誘う。ボディ剛性の低下など、オープン化で失ったものは、限界域では顕著なのだろうが、日常域では、ほとんど感じられない。それを嘆くことよりも、むしろ得られたものを謳歌する時間の方が、ずっと多いはずだ。
 できるものや欲しいもの、あれこれ全部欲張ると、逆に貧乏くさく見えることもあるが、カレラ4Sカブリオレは、全方位に隙のない完成度で、そんな雑音を封じる。その偏執ぶりは、ニューウェーブどころかまさにドイツ車、まさにポルシェそのものだ。実は、それこそが情緒を欠く要因だったりもするのだろうが、ともかく日常を供にできるスポーツカーの究極である911が、その魅力と実力を損なうことなく、非日常への切符まで手にしている。コイツが単なる屋根の開くカレラ4Sではない、新しい世界を拓く911であることに間違いないだろう。
SPECIFICATION
Porsche 911 Carrera4S Cabriolet
■全長/全幅/全高(mm)
4435×1830×1295
■ホイールベース(mm)
2350
■車両重量(kg)
1660
■エンジン種類/排気量
水平対向6DOHC24V/3595cc
■最高出力(ps(kW)/rpm)
320(235)/6800
■最大トルク(kg-m(Nm)/rpm)
37.7(370)/4250
■トランスミッション
5AT
■サスペンション(F:R)
ストラット:マルチリンク
■ブレーキ(F:R)
Vディスク:Vディスク
■タイヤ
225/40ZR18:295/30ZR18
■東京標準現金価格
14,220,000円
問い合わせ先
※上記スペックは本誌発売当時の値、価格は税抜き価格です。
 

  4WDのオープン、さらにワイドボディと911の要素がすべて詰まった感があるカレラ4Sカブリオレ。走りに関して、オープンモデルにありがちなネガティブな面も少ない。
  作りの良いソフトトップは、伝統的なドイツ製カブリオレらしい部分。新しいのは、そのオペレーション。ついに走行中(50km/h以下)の開閉まで可能になったのだ。
  スポーツカーでありながら、見ための上では“黒子”に徹するエンジンは相変わらず。通常は本体を見ることすらできない。良くも悪くも911らしい部分ではあるが……。
  デビュー当初は質感の低さが問題視された現行911のインテリアだが、最新モデルでは不満のないレベルにまで改善されている。もちろん、実用性も申し分ない。


古典的なラグジャリーオープンスポーツとして、カレラ4Sとは違った世界を築いているXKRコンバーチブル。4.2リッターV8のスーパーチャージャーユニットは、406ps/6100rpm&54.3kg-m/3500rpmのパワー&トルクを発揮。良い意味でワイルドなテイストが愉しめる。ならでは、といえるインテリアも魅力的だ。流麗なボディのサイズは、全長4777×全幅1850×全高1305mm。価格は13,830,000円。(ジャガージャパン
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