昨年、欧州でデビューを果たした2代目となるA8。
今秋には日本への上陸も予定されているという、このフラッグシップサルーンに欧州で試乗する機会を得た。
ここでは、アウディの持てる技術がくまなく注ぎ込まれた新型A8の在り方を通して、“アウディ・テクノロジー”について考えてみたい。


リポート|坂本一善|K.Sakamoto(本誌) フォト|アウディ・ジャパン

「技術による前進」という社是を掲げるだけあり、現在のアウディの技術力、テクノロジーは相当に高いレベルにある。と同時に、アウディが誇るそれらのテクノロジーは、機械やソフトウェアとして優れているだけでなく、多くの人を惹き付けて止まない魅力も備えている。なぜ、アウディのテクノロジーが多くの人々を魅了するのか? ここではそんな視点から、アウディのフラッグシップサルーンA8を見ていきたいと思う。
 そのA8については、昨年のデビュー時に欧州での試乗記をすでに掲載しているが、ここで改めて、その概要を簡単に紹介しておこう。
 '94年にデビューした初代のコンセプトを引き継ぎつつ、最新のテクノロジーが与えられた現行A8(コードネーム「D3」)は、2代目にあたる同社のフラッグシップサルーン。アウディお得意のクワトロ・システムによる高い走破性とスタビリティ、そしてASF(アウディ・スペース・フレーム)と呼ばれる独自のアルミボディ技術により実現したオールアルミ製の軽量ボディが、テクノロジー面での大きな柱となっている。
 ボディサイズは標準ボディで全長5051×全幅1894×全高1444mm、ホイールベース2944mm。この5mを超える体躯を持って、車重はわずか1780kg(4.2クワトロ)に過ぎない。
 搭載するエンジンは、現状では335ps&43.9kg-mを発揮する4.2リッターと、280ps&36.7kg-mを発揮する3.7リッターという2タイプのV8DOHC32V。組み合わされるミッションはティプトロニック付きの6速ATとなる。先頃のIAAでは3リッターV6を搭載するFFモデルもお披露目されているが、現状で市販されているモデルはすべてクワトロとなる。


 そのA8のトップグレードとなる4.2クワトロを伴って今回、ドイツそしてオーストリアを2000km近く走り込んできたわけだが、そこで感じさせられたのが、A8というモデルが「早く快適に目的地へ移動する」というクルマの基本に、実に忠実に造られているということだった。何しろ、運転していて疲れが少ないのだ。
 運良く(運悪く?)、今回は様々な状況、例えば夜のアウトバーンや渋滞の街中、狭いワインディングなどに出会えた。そうした状況下では、単純に空いた高速を走るのとは違い、ドライバーには様々なストレスが掛かるものだが、A8はそれを感じさせない。
 例えばエンジン。この4.2リッターV8ユニットはけっして新しいとはいえない、長年使い込まれたユニットだが、わずか1780rpmで100km/h巡航可能な低回転域での粘りと、リミットの6600rpmまでスムーズに吹け上がる鋭さを両立し、どんな場面でも、欲しい加速力を瞬時に引き出すことができる。それゆえ、ドライバーがアクセル操作に気を遣わされる場面は極端に少ない。
 疲れを感じさせない理由としては、学習機能を備えたエアサスペンションによるところも大きい。車速にあわせて車高、減衰をフレキシブルにコントロールするこのエアサスは、どんな状況下でも、しっかりと路面を捉え、車体をフラットに保ってくれる。それだけに、ドイツ車としてはちょっと小ぶりで、ホールド性も完璧とはいえないシートながら、200km/hを超えるような高速コーナーでも、身体がずれたり、過度に揺すられることはなかった。
 ドライバーが疲れない。それはA8がクルマの基本に忠実な証であると同時に、このクラスには不可欠な、コンフォート性をしっかり確保していることの証左でもある。そして、こと快適性に関していえば、今回試乗できたA8のロングバージョンA8Lの方が優れていたことも報告しておこう。
 このA8Lについて触れておくと、ボディサイズは全長5181×全幅1894全高1455mm。A8のボディをベースに、ホイールベースを130mm延長したモデルだ。車重は同じ4.2リッターモデルで比較して、50kgほど重くなるが、動力性能などで大きく劣る感じはなかった。むしろ、ホイールベースの延長分だけ動きにゆったり感があり、ノーマルボディよりも上質感が強く感じられるモデルという印象のほうが強かった。
 


エクステリアからすると、インテリアはやや簡素なイメージだが、ドライバーの操作しやすい場所に操作すべきものが備わった、非常に機能的なレイアウト。シートは全体にやや小さめで座り心地も硬めだが、快適性はなかなか。後席のスペースも十分に確保される。




 靖魔ニ、ここまで追ってきて、A8が非常に基本に忠実に造られた、完成度の高いモデルであることは理解いただけたと思う。しかし、実はこれらはA8を構成する上での副次的な要素に過ぎない。なぜなら、A8のステアリングを握り、数百メートルいや数十メートル走らせただけで、誰もがひとつの感覚に支配されるからだ。
「軽い!!」。走らせた瞬間に、誰もがそう感じるはずだ。自分が全長5mを超えるビッグサルーンを運転していることを忘れさせるほどの軽快感。ある意味で、それはライトウェイトスポーツをドライブしている感覚に近いが、ステアリングを通して伝わってくるトレッドやホイールベースの長さと、その重さが比例しない感覚は、何物にも代えられないA8独自のテイストであり、アイデンティティといってもいいかも知れない。
 そして突き詰めて考えてみると、実は先述の快適性を生んでいたのも、この軽さであることに気付かされる。ドライバビリティのよさも、フラットな走行安定性も、ボディの軽さあってこそ、なのだ。
 いうまでもないが、この軽さを演出しているのは、アウディの誇る独自のアルミ・ボディ技術、ASFである。この軽さと高剛性を両立するボディ技術があって初めて、この軽快感は存在する。さらにいえば、ただ軽々しいだけでなく、クワトロ・システムによるスタビリティの高さがドライバーに安心感を与え、それがボディの軽さと融合することで、A8の独自のテイストが成立している。
 この軽さが感じられる限り、A8はアウディが主張するように、生粋のドライバーズカーであり続ける。と同時に、走ることに楽しさを覚え、移動すること自体に喜びを感じるサルーンとして、このクラスで独自のポジションを築くことができているのだ。
 そして「なぜ、アウディのテクノロジーが人々を魅了するのか」ということだが、それはきっとアウディの生み出すテクノロジーの先に、必ず人間の感性があるからではないだろうか。技術が技術として自己完結するのではなく、技術が生み出した効果が必ずドライバーの感情や感性、例えば楽しさや喜びといったものに結びつく。いい換えれば、アウディの生み出すテクノロジーはクルマのためのものではなく、クルマに乗る人のためのものということ。アウディはその重要性をよく理解している。



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