まさに狂気である。つい最近まで、400psを超える性能など、非日常的な世界にだけ存在するエキゾチックカーの領域であった。だが、いまやサルーンカーがその領域に入り込んでいる。
 きっかけを造ったのはAMGである。かつては、自然吸気を前提にメカニカルチューンによって高性能化を実現していた。それだけに、排気量の拡大でパワーを稼いだV型12気筒エンジンを除き、300ps台がいいところだった。ところが、過給を前提にしたことにより状況は一転したのだ。
 ベースとなるメルセデス・ベンツのV型8気筒エンジンは、長らく大きな変更を受けていないが、スーパーチャージャーを組み合わせることで一気に400ps台、いやモデルによっては500psに達し(CL55)て見せた。
 ここで紹介するE55は、5.5リッターのV型8気筒エンジンを搭載し、最高出力476psを発揮。ポルシェ911ターボでさえ、最高出力は420psだ。0->100km/h加速も4.7秒と、911ターボの4.9秒(ティプトロニック仕様)に勝っている。一見すると、メルセデス・ベンツEクラスに思えるE55が、911ターボを超える速さを実現しているのだ。この事実を、狂気と例えずしてどう表現すればいいのか。
 そして、狂気を抱いたのはAMGだけではなかった。その世界に触発されるように、未知の領域に挑んできたのがアウディだ。特別なアウディの製作を手がけるクワトロ社との共同プロジェクトによって誕生したRS6は、4.2リッターのV型8気筒エンジンを搭載し、これにツインターボチャージャーを組み合わせることで最高出力450psを発揮。ベースとなるA6は、どちらかといえば知的なセンスを感じさせるクルマだが、その速さは0->100km/h加速が4.7秒と、やはり尋常ではない。
 だが、E55にしろRS6にしろ狂気をさらけ出しているわけではない。サルーンという衣で心身を覆い正気を装っている。いや、もともとは正気なのかもしれない。同じ衣を身にまとったEクラスやA6は、いずれも性能的には正気を逸脱していない。ならば、E55やRS6は狂気を秘めた正気のクルマということになるが……。
 確かにその通りだ。E55は、日常的な場面では狂気を感じさせない。E500を走らせていると思えば、まったくその通りだ。リアには4本のテールパイプが見えているが、エキゾーストノートは遠く後方から聞こえてくるような感じだ。エンジンは、静かに、滑らかに回り続けるだけのような気さえしてくる。その理由は、操作系のすべてが意外なほど穏やかな反応を示すためである。
 アクセル操作に対して過敏な応答性を示すことがなく、せいぜい3分の1程度の踏み込みであれば、余計な気遣いなしに周囲の流れに合わせられる。ブレーキも、初期のストロークをやや大きめに確保しているので、大ざっぱな操作を受け入れてくれる。センソトロニック・ブレーキ・コントロールも、E55のブレーキシステムと問題なくマッチングしている。
 ステアリングは、初期の応答性が穏やかだ。最近のメルセデス・ベンツは、かつてに比べると初期の応答性を向上させているが、E55はあえてそのままにしているかのようだ。それは、あたかも正気を装うために……。
 RS6は、最初から狂気と正気の境に心身の置き所を定めているようだ。アーチ状に張り出したフェンダーと19インチのロープロファイルタイヤが、E55にはない凄味を利かせている。
 リアから覗く左右2本出しのテールパイプからは、サルーンとしては大きめのエキゾーストノートが聞こえてくる。そのサウンドは、高度にメカニカルチューニングが施されたエンジンとは異なり、アメリカンV8のように音圧が高く迫力を感じさせるものだ。
 アクセル操作に対する応答性は、E55と同様に過敏ではない。ただ、日常的な場面でもすでに回りたがっているような印象がある。ブレーキのタッチも、大きな踏力は必要としないがストロークは詰めてある。いつでも、ハードなブレーキングを受け入れる用意が整っているといった印象だ。
 ボディ剛性は、E55以上に締まっているように思える。A6の場合はそう感じないので、RS6は専用の対策が施されているのだろう。サスペンションの剛性もかなり高く、装いは一応サルーンカーの体裁を成していても、走りの面ではスポーツカーであることを隠していない。ただ、狂気はまだ隠しているが……。
 
[アウディ史上最強のハイパフォーマー]
アウディのインディビデュアル仕様などを手がける、クワトロ社とのコラボレートにより誕生したRSシリーズ第二弾。心臓部は450psと57.1kg-mを発揮する4.2リッターV8ツインターボで、ミッションはW12エンジン用をベースに専用開発された5速ティプトロニックを搭載。シャシー系では、2系統のオイルラインを利用したDRC(ダイナミック・ライド・コントロール)と呼ばれるダンピング・システム採用がトピックとなる。
 
AUDI RS6
■全長/全幅/全高(mm)
4865×1850×1440
■ホイールベース(mm)
2760
■車両重量(kg)
1910
■エンジン種類
V8DOHC40V+ツインターボ
■排気量(cc)
4172
■最高出力(ps(kW)/rpm)
450(331)/5700-6400
■最大トルク(kg-m(Nm)/rpm)
57.1(560)/1950-5600
■トランスミッション
5AT
■サスペンション(F:R)
4リンク:ダブルウイッショボーン
■ブレーキ(F:R)
Vディスク:Vディスク
■タイヤ
255/35R19
■東京標準現金価格
11,800,000円
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※上記スペックは本誌発売当時の値、価格は税抜き価格です。
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