その対極に位置するのがアウディS3だろう。Aはもちろん、熱い(はずの)S系でも、実はアウディは人間など信じていない。不完全なドライバーをどこまで技術でカバーするかに、彼らは心血を注いでいるのだ。それは超弩級のS8において最も濃く感じられるが、実はベーシックなS3でも少しも損なわれていない。ゴルフとプラットフォームを共用しながらも、やはりアウディにはエリート風味もぷんぷん漂う。それだけに、いまやTTクーペと同じ225psエンジンを与えられたとはいえ、徒らに速さや強さを標榜しないだけの自制心もある。
 だからミーハー的に注目されることは少ないが、ある意味でホットハッチの究極としての評価は高い。軽量級スポーツセダンを手がけるメーカーの開発部門を訪ねると、かならず研究用のS3がいるのがその証拠だ。
 たしかに、技術者の夢の缶詰という点では、S3もアウディそのものには違いない。5バルブ+低圧ターボの滑らかなエンジンとフルタイム4WDによって、誰でも無意識に超高性能を発揮できてしまう。A4/S4以上のモデルと違って横置きエンジンのため、リアへの駆動力伝達にハルデックス・システムを使った結果、凍結路面の発進などクリティカルな場面では一瞬だけ反応が遅れるが、いざしっかりグリップしたら最後、見えない手でわっしり掴まれたかのように安定しきるのはさすがとしかいいようがない。
 逆にいえば、小柄なボディとエンジンの諸元から期待するほどの鋭敏なフットワークはない。完璧に近いESPのためもあり、どこからどうコーナーに飛び込んでも徹頭徹尾はっきりしたアンダーステアを保ちつつ、オン・ザ・レール感覚で走り抜けてしまう。アウディ・ドライバーはお釈迦様の掌で遊ばされているみたいなものだ。
 したがって、どう攻めようとも努力や熟練が求められず、無用の緊張感もないのが、この種のアウディの魅力であり欠点でもある。限りなく上質なインテリアに身を委ねてしまう感触には、せっかく奢ってくれた6速MTより新開発の6速AT(ティプトロニック)の方がふさわしいかもしれない。
 こんなS3に対しては、もはや我を張っても意味がない。自らアウディ・プログラムの一部となりきって徹底的に機械に仕事をさせ、快適、快速、安全という果実だけ味わうと本当の値打ちがわかる。
 
  Sシリーズのボトムレンジを支えるS3。ベースのA3に対して片側15mmほどワイド化されたオーバーフェンダー、そのフェンダーアーチいっぱいに収められた17インチタイヤが熱い走りを予感させる。エンジンは1.8リッター4気筒ターボで、大排気量化という手法ではなくマネージメントの変更で225psと28.5kg-mを獲得、トランスミッションは6速MTが組み合わされる。駆動方式は電子制御油圧式のハルデックス・カップリングを用いた4WD。

 
AudiS3
■全長/全幅/全高(mm)
4150×1765×1400
■ホイールベース(mm)
2520
■車両重量(kg)
1460
■エンジン種類
直4DOHC24V+ターボ
■排気量(cc)
1780
■最高出力(ps(kW)/rpm)
225ps(165kW)/5900rpm
■最大トルク(kg-m(Nm)/rpm)
28.5kg-m(280Nm)/2200-5500rpm
■トランスミッション
6速MT
■サスペンション(F/R)
ストラット/トレーリングアーム
■ブレーキ(F/R)
Vディスク:Vディスク
■タイヤサイズ
225/45R17
■東京標準現金価格
¥4,240,000
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※上記スペックは本誌発売当時の値、価格は税抜き価格です。
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