実に象徴的な大排気量マルチシリンダーユニットを搭載し、トップスピードは300km/hを遙かに上回る。
そんな2台の超弩級スポーツだが、実はかなり扱いやすい性格を持っている。
では、そんなスーパースポーツを操る悦びとはいったい――。

リポート|笹目二朗|J.Sasame フォト|望月浩彦|H.Mochizuki

 この2台のエキゾチックカーは、現段階でスポーツカーの究極といえる。考え得る技術の粋を駆使して、製造品質はもちろん、走行性能も最高レベルにある。価格も破格だ。しかし相似ではなく、まったく違ったプロセスで進化してきたし、アプローチの仕方も別々。よってどちらかを選ぶというよりは、余裕があるなら2台ともガレージに収めておきたいと思うだろう。世にスポーツカーは数あれど、これほど走らせることに特別な意識を持って臨まなければならないクルマはない。
 時は秋、スポーツカーを楽しむには絶好の季節だ。枯れ葉をまき散らしながら、ウインドーを開けてV12サウンドを心おきなく楽しむ――はずだったが、当日はあいにくの雨。こんな時には4WDのムルシエラゴがニッコリと微笑む。事実、スロットルを踏める状況ならば、まったく乱れを知らない。TRCは時に作動ランプを点滅させるも、4輪は確実にグリップしている。
 その一方で、575Mは時々ズリッと空転する。しかし大きく乱れる気配はない。フェラーリのブレーキは、これまで動力性能に見合ったものにお目に掛かったことがないが、この場合の比較ではムルシエラゴより初期の減速Gの立ち上がりは素早い感じだ。
 ひと言に集約するならば、ムルシエラゴは豪快、575Mは繊細とでもいえようか。しかしムルシエラゴの豪快さも、カウンタック、ディアブロと進化してきて、この三代目は荒削りな部分がかなり洗練されてきた。330km/hのマキシマムスピードを信じるならば、高速時のヨーイングもかなり少なくなっているはずだ。ミッドシップの後輪駆動車特有といえるスロットルのオン/オフによる荷重移動は、一瞬にしてアンダーからオーバーステアへの変化が激しかったが、4WDは前輪のグリップ感が実に頼もしい。FFに慣らされてしまった影響もあるが、操舵輪にも駆動力が加わることにより、より確実に旋回態勢に入ることができる。この信頼感は想像以上に大きい。
 ムルシエラゴから575Mに乗り変えると、まず緻密で繊細な感覚に高級な乗り物という洗練を感じる。65度の不等間隔爆発だということも忘れてしまいそうな滑らかな走行感は、スポーツカーに荒々しさを求める人には向かないかもしれない。F1システムによるパドルシフトは意のままに作動する点が見事だが、基本的なギアのステップアップ比が正しく、クロスレシオの見本といえる。左手でパドルを引くたびに、ウォン、と500rpmほど自動的にエンジン音を高めてシフトダウンしていく。アルファはダブルクラッチよろしくウォン、ウォンと2度吹きするが、フェラーリは1度ですぐ繋げてしまう。これができるのもギアレシオが接近しているからだ。
 575MはFRだから、操舵輪のグリップは荷重に頼るほかない。しかし、ノーズのエンジンの重さはそれを賄う。そして並みのFRは操舵しても駆動力が掛かるとアンダーを強めるし、挙動の遅れが気になるところだが、575Mはイニシャルのステア特性としてアンダーが強すぎないから、FRの弱点をあまり感じない。ここがFRスポーツカーの究極たる所以である。
 どちらが好きか。これは聞かれずとも、スポーツカーのなんたるか、つまり操縦する楽しさを知っている歴史の重さをもって575Mマラネロと答えるだろう。これは2台とも買えない者の、さしあたっての結論である。
 
 
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