知る人ぞ知る通好みの選択というサーブのキャラクターは、もう過去のものになるかも知れない。
すべてが新しくなった9-3は、そう感じさせるほどあらゆる面で高い完成度を誇る。
スウェディッシュ・カーズ特集は、その巻頭を飾るに相応しい新型9-3からスタート。
スウェーデンで走らせてみたファースト・インプレッションをお届けしよう。

リポート|市原直英|N.Ichihara(本誌) フォト|日本ゼネラルモーターズ

 サーブに乗るたび、いつも思うことがある。それは、どうしてこのクルマはこんなに軽いのだろう? ということだ。絶対的な車重のことではない。ドライブした感覚が、明らかに車検証の数値と異なっている。想像していた車重より車検証の数値の方が、必ず重いのだ。この感覚こそがサーブをサーブたらしめている所以であり、その発祥が航空機メーカーであることを物語る、重要なファクターといえるだろう。そして新型9-3はこの美点を継承しつつ、さらに新しい価値を獲得するに至っていたのだ。
 まずは概要をお伝えしておこう。9-3としては4年ぶり、900から数えれば実に9年ぶりのフルモデルチェンジとなるだけに、その変化はドラスティックだ。最大の変更点は、ボディ形状が5ドアハッチバックから4ドアセダンにスイッチしたことだろう。全長、全高はほとんど変わらぬものの、全幅のみ55mm拡大。また、ホイールベースを延長してキャビンスペースの拡大を狙う近年のモデルチェンジのお約束に漏れず、新型9-3もこれを71mmストレッチ。これにより室内空間は先代9-3に比べ、およそひとまわり半ほど広くなった印象を受ける。特に横方向の拡大は顕著だ。
 そしてエンジンおよびシャシーも一新。ラインナップはすべて直列4気筒の2リッターターボで、過給圧を変更することでそのキャラクターを異にしている。スペックはベーシックな1.8tが150ps/24.5kg-m、2.0tが175ps/27.0kg-m、そしてハイプレッシャーターボの2.0Tは210ps/30.6kg-mを発揮する。排気量こそ先代9-3と変わらないが、これらはすべてオールアルミ製の新ユニット。ヨーロッパでは2.2リッターのターボディーゼルも用意される。トランスミッションはATが5速に、MTは6速にアップグレードされた。
 一方シャシーはこれまで通り、同じGMグループのオペル・ベクトラとの共用を前提に開発されたものを使うが、今回は最新スペックのプラットフォームが与えられている。サスペンションも先代9-3とは異なり、フロントはストラットと形式こそ変わらぬものの新開発で、リアはトレーリングアームの半独立式から4リンクの完全独立式に刷新されている。チューニングはサーブのエンジニアの手によるものだから、これまで通りベクトラとはまったく異なるフィーリングになっているはずだ。
 グレードは下からリネア、アーク、ベクター、エアロ。順にスポーティ感を強調する設定となる。


 試乗会の行なわれたストックホルムは、短い夏を謳歌する人々の笑顔に包まれていた。また湿気のない7月の澄んだ陽差しは、新型9-3のボディをいっそうソリッドに見せていた。そしてその印象は、ドライブすればするほどに深まっていったのだ。
 おもにコンタクトしたのは2.0Tのエアロ、5AT仕様である。やはり、圧倒的に軽い。ボディが自分のカラダに、タイトにまとわりついてくる。新型9-3の車重は装備によって異なるものの、1440〜1490kgとアナウンスされている。ライバルとなるメルセデス・ベンツC200Kは1500kg、BMW318iは1390kg(日本仕様)だが、その軽快感は明らかに318iをも上回る。
 郊外のワインディングを走らせながら考えを巡らせていると、軽さの理由が少しずつ分かってきた。それはいろいろなものの相乗効果のようだが、ハンドリングチューンは特に重要な要因といえそうだ。
 サーブ車は伝統的に、ステアリングを切ってから4輪が即座に反応する。この特性が新型ではさらに突き詰められているのだ。ロック・トゥ・ロック2.97回転のステアリングはサーブ史上もっともクイックなものだというし、コーナリング時にリアタイヤが逆位相に動くようトー角をコントロール、旋回を助けるシステムもこの新型から採用されている。
 そして見逃せないのが、飛躍的に向上したボディ剛性だ。開口部の大きなハッチバックから剛性面で有利なセダンをチョイスした上、先代9-3のプラットフォームは旧々ベクトラのものだったから2世代分の刷新である。ねじれ剛性はなんと先代の2倍以上というから、サスがキッチリ仕事をこなせるようになったのも当然。先に挙げたドイツ車たちとも剛性感はほぼ同等。だが、質が違う。ドイツ車を堅牢な檻とするなら、新型9-3は繊細かつ強固な、卵の外殻でドライブしているような感覚だ。
 と同時に、このプラットフォームはフロア剛性の高さも特筆もので、高級感までがプラスされていることを付け加えておく。
 そしてエンジンのピックアップのよさも、この軽さに大きく貢献している。わずか1750rpmで最大トルクの約85%、175ps仕様の2.0tにいたっては約90%を発生するため、あたかも2.5リッタークラスのクルマをドライブしているような錯覚に陥る。しかも、吹け上がりがスムーズ。2.0Tなら、レッドゾーンの始まる6500rpmまでトルク感がタレることがない。それでいて、エンジンは軽量な直列4気筒。つまり、パワー感の割にノーズが圧倒的に軽いことはいうまでもない。
 内外装のデザインは、流行のシンプルかつスマートなスカンジナビアンテイストに溢れるもの。それでいて、ハードの出来は申し分ない。Cクラス、3シリーズという両巨頭に真っ向勝負を挑む、新しいカードがまた一枚、マーケットに加えられたといっておこう。
 
写真はエアロ。インテリアはグッとモダンになった印象を受ける。ただし、スイッチなどの機能を有する面をフラットとし、全体をドライバーに向けるなど、基本的な考え方は踏襲されている。ユニークなのはサイドブレーキレバーやドリンクホルダーまできちんとデザインされている点。5ATはマニュアルシフトも可能になっている。
  エンジンはブロックのみオペル系と共通。オールアルミ製となり、エンジン単体で約15kgの軽量化が図られている。ターボチャージャーはギャレットのGT20。
  ツインスポークのアルミホイールはエアロに標準。タイヤは215/50R17で、試乗車はミシュラン・パイロット・プリマシーを装着。タイヤサイズはベクターも同じ。
シートはまさにスカンジナビアンテイストが感じられるところ。サーブ・アクティブ・ヘッドレストは第2世代に進化。窮屈すぎないフィット感は実に快適である。
トランクスルーを採用したのはハッチバックユーザーの乗り換えに配慮した結果だろう。トランク容量は421リッターと十分なもの。スキーバックも備えている。
  ハイプレッシャー、ロープレッシャーとも段つき感は皆無。旨味がある回転域は前者が3000〜4500rpm、後者は2000〜3500rpmとなる。さすがにターボの扱いが上手い。
  トランクリッドのリップスポイラーはエアロに標準装備。太いCピラーと前傾したフォルム、そしてトランクとバンパーの絶妙な面構成がサーブであることを主張する。
  SAAB 9-3
  Vector 2.0t Aero 2.0T
■全長/全幅/全高(mm)
4635/1762/1466
■ホイールベース(mm)
2675
■トレッド(前/後)(mm)
1520/1506
■車両重量(kg)
■エンジン種類
直4DOHC16V+ターボ
■排気量(cc)
1988
■最高出力(ps(kW)/rpm)
175(129)/5500
210(155)/5500
■最大トルク(kg-m(Nm)/rpm)
27.0(265)/2500
30.6(300)/2500
■トランスミッション
5AT
6MT
■サスペンション(F:R)
ストラット/コイル: 4リンク/コイル
■ブレーキ(F:R)
Vディスク:ディスク
■タイヤ(ホイール)
215/50R17(7J)
■東京標準現金価格
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※上記スペックは本誌発売当時の値、価格は税抜き価格です。
 
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