ポルシェ・911カレラ
PORSCHE 911 Carrera

幾度となく「究極」を塗り替えた
執念の歴史はいつまで続く
911が長年抱え続けるジレンマとは──

 工業技術は常に進化する。工業製品は常に改良される。その権化がポルシェ911だから、いつでも「最新のポルシェこそ最善」は正しい。細かく分類すれば、911といっても初期のものから930、964、993と続き、'97年に初のフルチェンジを遂げて現在の996になったという流れはある。しかし、それらすべてをひっくるめて、911は一貫して911だったともいえる。具体的な部品に変化はあっても、全体を貫くコンセプトにいささかの揺らぎもない以上、連綿たる改善と進化にも途切れ目がない。だとすると、996と呼ばれる現在のポルシェ911は、 20世紀の後半を駆け抜けた特異なスポーツカー史の、幸福な最終章になる可能性もある。
  それにしても、911を眺めていつも思うのは、底知れぬ執念だ。古き佳き356時代には、あり合わせの材料でスポーツカーを作るという意味で、VWビートルを利用したリアエンジン方式にも理由があった。それを専用設計となった911時代に入っても捨てようとはせず、こだわりにこだわりを重ねてここまで至ったこと自体、執念でなくて何であろう。これほどの高性能車なら、リアのオーバーハングにエンジンという最も重い部品をぶら下げるのが、いかに理不尽かは誰でも知っている。単純に横Gを考えても、テールの先から簡単にブレイクして当然だ。
  しかし現実の911は、最新に近ければ近いほど巌のような安定性を誇り、もはや公道上で気軽に攻めた程度では、テールアウトの気配すら感じさせない。今回も、高性能スポーツカーといえば勧進帳的な存在として、またまた911を呼び出すことになったのだが、あらためて乗って、その完璧ぶりに何回目かの脱帽をせざるを得なかった。
  特に'67年、 '85年、 '90年と3台の911を愛用したことのある筆者には、その間の進化がよくわかる。いつも911に乗ると「もうこれで完成だろう」と思うのに、タイプどころかモデルイヤーが進んだだけで、かならずどこか改善されている。 '02年モデルも、目立たないが超高速時の安定感が増したほか、リアエンジン・ポルシェの歴史で初めてグラブボックスが備わり、ついでにダッシュ組み込みのドリンクホルダーが付くなど、細かい配慮が随所に見える(カブリオレのリアウインドーもガラスになった)。
  今回、このページに登場する3台を気の向くままに乗り比べても、911ほどドライバーの気持ちに密着するスポーツカーはない。993から現行996になってサイズアップしたのが惜しい気がするが、それでもいまだに乗るというより「着る」感じなのが凄い。'01年までより排気量もパワーも上がったが、このシャシーは平気でそれを消化している。かつてはノーズが軽すぎるあまり、不用意なコーナリングだと思わぬアンダーステアを露呈し、そのまま無理に曲がろうとすると急激なオーバーステアに転じたものだし、雨の高速巡航なども要注意だったが、いまではすべて心配ない、万能のラナバウトとして完成している。
  もちろんポルシェ・グループは、卓越したスポーツカーを売るだけでなく、他社から設計を請け負ったり、特許を提供したりする技術販売企業でもある。スポーツカーは、そんな技術のショールームともいえる。だからこそ、あえて困難なテーマを設定しての、執念の改善作業だったとも解釈できる。
  では、これからの時代に向けて、はたして911はどこに行くのだろう。いろいろ細部の改良はある。さらに現在開発中のCVT(名称はCVティップだそうだ)も搭載されるだろう。ターボやGT2などのように、度肝を抜くスーパースポーツも追加されるだろう。でも、この基本形のまま、本当に次世代を提案できるかどうかは、あまりにも不透明でわからない。
  それより、いま911に乗るのは、本当に時間を惜しまない、息の長い仕事がどれほどの高みに達することか、しみじみ思い知ることでもある。そういう意味では、歴史の復習のようなクルマかもしれない。
水冷エンジンのコードネーム996は'97年に登場。ひとまわり大きくなったボディは賛否両論分かれるが、RRゆえのクセのあるハンドリングは影を潜め、走りのレベルは格段にアップした。昨年リリースされた第2世代とも呼べる'02モデルは、排気量を3.4リッターから3.6リッターに拡大。同時にジオメトリーを含むサスペンション全体が見直され、さらにスタビリティを向上させている。フロントマスクはいわゆる「ターボフェイス」。

Specification(911 Carrera)
●全長×全幅×全高 4430×1770×1305mm
●ホイールベース 2350mm
●トレッド前:後 1465:1500mm ●車両重量 1420kg
●エンジン種類/排気量 水平対向6DOHC24V/3596cc
●最高出力 320ps(235kW)/6800rpm
●最大トルク 37.7kg-m(370Nm)/4250rpm
●トランスミッション 6MT
●サスペンション前:後 ストラット:マルチリンク
●ブレーキ前:後
ベンチレーテッドディスク:ベンチレーテッドディスク
●タイヤサイズ前:後 205/50ZR17:255/40ZR17
●東京標準現金価格 9,900,000
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