カーライフのなにをもって幸せとするか?
永遠の命題を、奇才・渡辺敏史がユル〜く語りまくる新説自動車幸福論。
今月は、アウディ・デザインの傑作中の傑作、TTを。
もはや自動車デザイン世界遺産、と呼んでも差し支えないか!?
文|渡辺敏史|T.Watanabe 写真|宮門秀行|H.Miyakado
車両協力=アウディジャパン TEL:0120-598-106
アウディ世田谷の独立したガラスショーケース内に置かれているオレンジのTTクーペ。どれほど眺めても飽きることがない。
日々ストレスの大半を酒で押し込める自堕落な生活を続けている僕だって、たまにはどこかの歌手みたいにアテもなくクルマを走らせてみたい衝動に駆られることもあるもので、そんな夜半にはRX-7を車庫から引っ張り出す。
ポカンと空いた暗闇の中にポツポツと行儀良くオレンジ色の光が並ぶ羽田あたりの夜景を舐めて、環八を上ってクルマ関係を専門に扱う本屋さんに寄りウロウロと店内を徘徊してと、そんなダラダラした時を過ごすと、ついさっきまで〆切やらメール整理やらゴミ出しやらでパツパツだった頭の中の小さい自分たちがほぐされる気分になる。お酒を飲めば強制終了的にそういう方向に向くのだけど、やっぱり何も考えないシラフの時間というのもいとおしい。
で、ひとしきり冷やかしを終えて店を出たついでに、その数件隣にある無機質な打ちっ放しのアウディ世田谷店を覗いてみると、看板的に1台ぶんだけ設けられた特別な展示車スペースにここ1〜2年、大抵置かれているのが柿色のこのクルマだったりする。
……。
監視カメラのアングルも気に留めず、ボーッと10分くらい眺め続けても全然飽きることがない。
TTは先代のA6と並んで、マーケティング史に残る超高速大変革を遂げたアウディの旗持ち的な役割を果たしたクルマだ。それと共に、アルファ156と並んで、'90年代後半以降の自動車デザイン史も築き上げた偉大なクルマだとも個人的には思っている。
世界をなびかせたアウディのデザインのキモは塊の力だ。ようやくシングルフレームも目慣れてきたものの、しかしそれはグラフィカルな線に唸らされる類のものではない。何の気なしに目に留まった面を少しずつ引いて見ると、それがお見事に全体の辻褄と繋がっている。そういう寡黙な念が本来のアウディ・デザインにはある。
中でも、徹底的に引算と研磨を繰り返した挙げ句に辿り着いただろうTTの存在感は、今や河口に転がる石のようでもある。眺めているだけで落ち着く、ストーンパワーみたいなものを感じるのは僕だけではないだろう。個人的にはリアの控えめなスポイラーすら引っぺがしたくなるほど鬱陶しい。浮かせないように乗ろうという想いがあれば、こんなものを背負わせることもなかったのにと思う。
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