アストン・マーティンV8ヴァンテージ

ASTON MARTIN V8 VANTAGE

911キラーの最右翼

フォードの力を借りて、アストン・マーティンはすっかり元気になった。その勢いは、これまで7回も倒産の危機に迫られた会社とは思えないほどで、ヴァンキッシュ、DB9と、いかにも英国らしい魅力的なスポーツカーをユニークな生産手法で送り出している。今回、イタリア・トスカーナ地方の丘陵地帯を舞台に試乗会が催されたV8ヴァンテージも、元気なアストン・マーティンをまたもや強く印象づける仕上がりだった。

リポート|野澤一幸|K.Nozawa フォト|アストンマーティンジャパン


DB9と同じ方式で年間5000台を生産


 アストン・マーティンが用意してくれたチャーター機は、サンジョベーネ種の葡萄畑が一面に広がるトスカーナのシエラ空港に吸い込まれるように着陸した。空港で出迎えてくれたのはレンジローバー。それはいまや、アストン・マーティンがフォード・グループの一員であるという事実を再認識させられる歓迎だった。
  初めて目の当たりにするV8ヴァンテージのスタイリングは、基本的にDB9からの流れを汲むもので、デザインの総指揮を執ったのも同じくスカンジナビアンのヘンリック・フィスカー。繊細かつ優美なラインはまさにDB9譲りだが、フロント&リアフェンダーの張り出しがDB9に比べて若干抑えられていることで識別できる。もちろん、ディテールの違いは多々あるが、漂う雰囲気はかなり近い。ロングノーズ&ショートデッキの古典的なスタイルは、いつの時代もクルマ好きに好感を持って迎え入れられるもののようだ。
  スリーサイズは全長4382×全幅1866×全高1255mmで、ホイールベースは2600mm。すなわち、V8ヴァンテージのボディはDB9に対して328mm短く、9mm狭く、63mm低い。ちなみに、このボディについてちょっと触れておくと、DB9との一番の違いは、Aピラー後半からCピラー、そしてリアフェンダー回りが0.7mm厚のスチールで一体成形されている点だ。ルーフはDB9と同じくコンポジットだが、その両サイドにはパイプ状のスチール材が通っている。これは、もっぱら生産効率の向上を狙ったもので、このあたりにハンドクラフトとはいえ年産5000台を狙うクルマの造り方を垣間見ることができる。
  その他の部位はDB9とほぼ同じで、VHプラットフォームと呼ばれるアルミスペースフレームも、サイズに合わせてガゼットなどが入れられている程度の違いとなる。また、リアにスチールのスペース鋼管フレームを生やしてボルトで結合する方式や、フロント部にアルミダイキャスト製のサブフレームを抱くという手法も、DB9とまったく同じものだ。
  ただし、V8ヴァンテージのリアサスペンションは、ブッシュを介すことなくダイレクトマウントされている。これは、サスペンションのジオメオトリーを設計値通りに出すためで、スポーツカーらしいダイレクトな操縦性確保を狙ったものといえる。
  試乗に先立ち、まずはエンジンルームを覗いてみた。V8ヴァンテージで注目のひとつはエンジンで、ジャガーXKと基本的に同じV型8気筒を搭載している。オープナーをリリースしてストライカーを外し、アルミ製のボンネットを開けると、DB9と同様に軽くスッと持ち上がったが、その軽さよりも驚いたのはエンジンの搭載位置だった。
  バルクヘッドにトランスミッションをグッと押し込むことにより、その搭載位置は前軸より完全に後方となり、文字通りのフロントミドシップを実現。通常、これだけでも賞賛すべき事柄なのに、V8ヴァンテージの開発スタッフはさらに、ジャガーXKの乗用車然としたエンジンをスポーツカー用にモディファイするため、潤滑系をドライサンプ化している。ドライサンプはオイルパンを必要としないため、そのぶんエンジン搭載位置を低くでき、それが低重心化に大いに貢献することになる。
  エンジンに関してさらにいえば、当然内部にも手が入れられている。まず4.2リッターを4.3リッターに排気量アップしているが、これにはボアを拡大することで対処している。ストロークを変えると他のムービングパーツの再設計を要求されるため、ブロックのキャパシティが許すなら、この方法はもっともコスト的に安く上がる。さらにいえば、ストロークアップしないことで、エンジン高を変更せずに済むというメリットもある。
  また、クランクシャフトはXKと同じものを使うが、高回転型にするためにジャーナルを若干削り、そのぶん上等なメタルを入れて耐久性を確保。ピストンとコンロッドは鍛造製を奢っている。これは、フォードが持つ財産をグループ内で共有するというシナジー効果の現れだが、ただ流用するだけでなく、スポーツカーエンジンに相応しいモディファイを施しているところに、アストンの開発スタッフの情熱を見た思いがした。

4000rpmまでは低く抑えられていた排気音が、4200rpmを超えたあたりからクオーッという音色を奏で始める。アストンによると、試作マフラーは50本に及んだそうだ。なお、最高速は280km/h、0→100km/hは5秒フラット。80mmと当然ながらロングが勝る。
エンジンはジャガーXKのそれをアストン・マーティンがチューンしたもの。ご覧のように、エンジンルーム内に沈み込むようにマウントされている。その搭載位置にも注目。文字通りのフロントミッドシップだ。
ブレーキはDB9と共通のスペックで、ブレンボ製の4ポッドキャリパーでフロント353mm、リア330mmのディスクを締め付ける。タイヤはBSのポテンザRE050A。サイズはフロントが235/45ZR18、リアが275/40ZR18となる。
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