アストン・マーティン ヴァンキッシュS
ASTON MARTIN VANQUISH S

モアパワーを手に入れた
アストン史上最強の
スーパースポーツ


2001年の発表以来、累計生産1500台以上という成功を収めているアストン・マーティンのフラッグシップ、ヴァンキッシュ。
今回、そのマッシブなボディに、パワーアップしたエンジン、よりハードな足回りが与えられたヴァンキッシュSが日本に上陸した。


リポート|萩原秀輝|H.hagihara フォト|望月浩彦|H.Mochizuki


伝統のクラフツマンシップと
先進テクノロジーの“合体”


 ハイテクノロジーとローテクノロジーの融合。アストンマーティン・ヴァンキッシュSに乗って思い浮かんだのは、そんなフレーズだった。いや、融合ではない。それぞれのテクノロジーがもたらす価値は、決して溶け合っていない。明らかに主張しながら、ヴァンキッシュSを成立させている。その意味では、融合ではなく合体というほうが正しいだろう。
  エンジンをスタートするとき、まずキーを回してイグニッションをオン。そして、ガラス製のスタータースイッチを押す。次の瞬間、V型12気筒エンジンは“ヴァイン”という激しい咆吼とともに目覚める。この段階ですでに、ハイテクとローテクが合体していることが分かる。スタータースイッチを押すという行為自体は、イグニッションキーのマルチファンクション性とは離れてしまうので、システムとしてはローテクであってもハイテク感があり、セキュリティの面でも同様となる。そのスイッチをガラス製とするのは、ローテク感ある演出といえる。
  エンジンの目覚め方にしてもローテク感がある。ところが、520psを発揮する6リッターエンジンは、PTEC(パワートレインエレクトロニックコントロール)と呼ぶ高速多重通信システムで完全に電子制御され、スロットル制御もバイワイヤー化されている。こうしたハイテクを投入する一方で、エンジン本体は手作業で組み上げられている。そうしたローテク感にこそ、価値を見出す人も多い。
  トランスミッションは、2ペダル式の6速MTを組み合わせる。エンジンをスタートしたときにはSSM(セレクトシフトマニュアル)モードとなり、ステアリングの裏側にあるパドルで操作する。ブレーキを踏んだまま右のパドルで1速にシフト。アクセルを少しだけ踏めば、その通りにヴァンキッシュSは走り始める。すべての操作には、まさにハイテクの恩恵といえる電子制御の裏付けがあるので、余計な気遣いはいらない。
  もちろん、ラフな操作は厳禁である。アイドリング状態から50kg-mに迫るトルクを発揮するだけに、アクセル操作がオン・オフ式(あるいは強中弱の3段階でも)のスイッチのようになる人は、走り始めた瞬間にヴァンキッシュSの運転を諦めざるを得ない。
  当たり前にアクセル操作ができる人なら、ヴァンキッシュSがエンジンやシフト制御にあえてローテク感を残していることに気付くはずだ。右のパドルでシフトアップする時にはギアのつなぎ感を意識させ、左のパドルでシフトダウンする時には自動的な回転合わせを行ない、絶妙なヒール&トウが決まったような快感に導く。
  エンジンの特性も、排気量の大きさに任せてフラットトルクにできるはずだが、あえてそうしていない。中回転域から高回転域にかけて、トルクが鋭く盛り上がる。4000rpmまでの間に目が覚めるほどの力強さを発揮するが、それは前振りだ。4000rpmを超えてからが本領となる。60kg-mに迫る最大トルクを5800rpmで引き出すという、6リッターの大排気量エンジンにしては高回転型なのだ。高回転域に入ると、サウンドまで“クォーン”という音のミサイルに変わる。よく、空気を震わせるという表現があるが、そうではなく空気の壁を突き抜けるようなサウンドなのだ。
  そして、7000rpmに迫る勢いで一気に吹け上がる。SSMを別のスイッチ操作でスポーツモードにすると、シフトスピードはわずか0.25秒という、人の操作では不可能なほど素速くなる。レブリミット直前でシステム保護のために自動的にシフトアップする機能も解除されるので、回転数の判断は慎重を要する。
  だが、2速で7000rpmまで回すと、速度は130km/h近くに達する。その速域で走りながら、手に汗握るような加速に身構えつつタコメーターに視線を飛ばすのは簡単ではなく、時に“バババッ”と響くレブリミッターの助けを借りることもある。それを避けるために、さらに緊張感が高まる。その緊張感を楽しめる感性を持っていないと、ヴァンキッシュSを乗りこなすことはできない。
  もちろん、走るだけならハイテクが操作を補ってくれる。ASM(オート・シフト・マニュアル)モードを選択すれば、ATと同様の走りが得られる。ストレートでアクセルを踏み続ける(どこでとはいえないが)のであれば、加速に身構えることはあっても緊張感に縛られるほどではないはずだ。
ハンドメイドのオールアルミ製6リッターV12ユニットをさらにハイチューン。520ps/58.8kg-mというスペックは、従来型に対しパワーで60ps、トルクで3.5kg-mのエクストラとなる。カタログ上の最高速は321km/hをマーク。
上質なレザーとアルミが絶妙なハーモニーを奏でるモダンなインテリア。従来モデル同様、エンジンスターターやリバーススイッチはセンタダッシュに横一線に並ぶ。2ペダルのシーケンシャル式6MTは、ステアリング上のパドルシフトで操作。
ホールド性に優れたフルレザーのスポーツシートが標準装備。なお、キャビンスペースは2+2と、2シーターから選択可能となる。
ホイールは19インチの軽量鍛造アルミ。ハイパワー化に合わせて、フロントブレーキはより径の大きいベンチレーテッドディスクと6ピストンキャリパーにアップグレードされている。
スポーツカーとしては必要にして十分なサイズのトランク容量は240リッター。リアシェルフ中央にはヴァンキッシュ用に開発された、Linnオーディオシステムが搭載される。



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