

フェラーリ 430スパイダー
FERRARI F430 Spider

天使と悪魔がいる

ステアリングホイールにあるスタートボタンを押すと、ごく短いクランキングがあって、エンジンは即座に目覚める。
クー、フォンという感じ。クルマ自らがブリッピングをくれるのだ。
なにか野生といったものを思わせる、そのフォン……。
それは、非日常の世界へ入る合図のようなものだろうか。

リポート|小倉正樹|M.Ogura(本誌) フォト|柴田幸治|K.Shibata
 

'60年代スポーツカーの面影が漂う
 ジュネーブでショーデビューの翌週、フェラーリF430スパイダーの試乗会が、本拠地マラネロ近くの小さな街、サッスウロを起点に行なわれた。その素早さにも驚くが、もっと驚いたのは、クルマが遊び要素の強いスパイダーということもあってか、今回のスケジュールが、フェラーリとしてはかなりエンターテイメントを意識したものとなっていたことだ。
それは、設定されたコースをグルッと回れば、視覚、聴覚、嗅覚などの五感を楽しませる体験ができるというもので、ちなみに聴覚は19世紀イタリアの代表的歌劇作曲家、ジュゼッペ・ヴェルディの館“ヴィラ・ヴェルディ”(タイトルバック・フォト)を訪ねるというもの。いつもは簡単な説明会があって、たとえば午前中はフィオラノのテストトラック、午後はどこかマラネロの郊外を走るというのが定番だったのだが、フェラーリも変わったものだ。
スパイダーの実車とご対面となったのは、前夜説明会が行なわれたサッスウロ旧市街の中心にある大きな館の前庭、ピアッツアにて。石畳の広場に、照明に浮かび上がるようにスパイダーが2台、置かれていた。ここでようやく気がついたことがある。F430の特徴的な左右分割のラジエター開口部は、フィル・ヒルが駆ってチャンピオンになった'61年のF1マシン、156のノーズに由来するものであるということだ。
なにをいまさらではある。360モデナのデビュー時から、それはいわれていたことであるし、ピニンファリーナのチーフデザイナーであるラマチョッティ氏をインタビューした時にもそう聞いていた。とはいえ、360モデナの場合、それは四角っぽく、左右が離れすぎて、あまりそれらしさが感じられなかったのも事実。430に進化してオーバルになった時点では、むしろ違和感を感じた。だが、こうしてオープンモデルになってみると、それは同じく'61年のスポーツカーレースで活躍した、キティ・ノーズの250テスタロッサに佇まいがそっくり。
'60年代のスポーツカー選手権マシンを彷彿とさせるF430スパイダー、どこかロマンチックなのである。これはいい。

オープンモデルとして一級のコンフォート性

試乗会の現場スタッフの「アウトストラーダまで先導しましょうか?」という申し出を受け、F1ギアボックスをオートモードにして、サッスウロの街を走り出す。
そのF1ギアボックスは、360モデナのものよりさらに洗練されてスムーズなギアチェンジをみせる。普通に走っている限り、シフトアップ時の加速の途切れも少なく、シフトダウン時の回転の合わせ方は、ヒール&トウのワザをさらに磨き上げたという感じ。これなら、若葉マークのドライバーであっても、2m近い車幅を恐れず、フェラーリを運転するということに動じなければ、十分街中に乗り出せるだろう。
ともあれ、このスパイダーは快適なクルマだ。ソフトトップを上げても降ろしても、オープンモデルとして一級のコンフォート性を備えている。朝から雲行きが怪しかったことから、出発時からトップはずっと上げてきたが、それで分かったのはこの幌がかなりシッカリと作られていて、高い遮音性を示すということであった。アウトストラーダを飛ばしても、幌のバルーミング現象はなく、室内の平和は保たれる。アウトストラーダを降り、青空が広がり始めたのを確認してトップを下ろせば、今度は見事な巻き込み風のコントロールぶりがうかがえる。そこそこのスピードで田舎道を駆け抜けても、サイドウインドーさえ上げていれば、巻き込む風は頬をなでるそよ風ぐらいでしかない。“天使の囁き”だ。エアコンで足下を暖めていれば、まだまだ寒い3月の気候の中でも、延々と走っていけるぐらい快適。オープンモデルの気持ちよさが、なんの犠牲もなしに堪能できる。
しかも、このソフトトップの開閉はわずか20秒でコト足りる。フロアコンソールにあるスイッチを押し続ければ、トップはロックの解除をはじめとするあらゆる作業をフルオートでこなし、オープンモデルにありがちな煩わしさをほとんど感じさせない。
|
| 
 |
フェラーリの説明によれば、スモール・フェラーリのスパイダー比率は355の時代で33%、360の時代で43%にも達していて、今回の430では55%(!)になるものと見込んでいる。 |
 |
F1テクノロジーが惜しみなく注がれ、フェラーリらしさが強く感じられるF430。そのオープンモデルには、かつてのスポーツカー選手権マシンの面影も重なって、非常に魅力的。 |
 |
基本的にベルリネッタのF430と変わらないダッシュボード。メーターパネル中央のタコメーターはイエローとレッドの盤が用意され、中央、および左右のエアアウトレット回りのパネルはカーボンとアルミが用意される。 |
 |
シートは電動、フルレザーのデイトナ・スタイル・シートで、柔らかすぎず、硬すぎずの絶妙な座り心地を実現している。もちろん、そのホールド性は高く長時間座っても疲労は少ない。 |
 |
360以来、フェラーリはボディの空力コントロールに積極的だが、その技術力がいかんなく発揮されたといえるのが、このウインドーディフレクター。中央部分は透明アクリルを使う。 |
|