その結果、すでに大きいと言われていた三代目より、さらに全長で20cm以上、全幅で15cm以上も拡大され、同時に重量も250kg以上増えてしまった。そのくせホイールベースは三代目よりわずか25mm増の2769mmだったから、いかに前後のオーバーハングが長かったかがわかるだろう。大型化の理由として、フォードは「これまで室内が狭いという不満が多かったから」としたが、これはスカイラインR32からR33へのモデルチェンジと大型化に際しての日産の説明と似ている。そして次の五代目でマスタングが少しコンパクト化されたのも、R33からR34への変遷と共通だ。小さければ狭いと言われ、さりとて大型化すれば締まりがないと非難されるのは、どのスポーツタイプにも共通のことらしい。結局、ここまで40年の歴史を通じて四代目が最大のマスタングということになっている。
こうした大小の問題には、クルマとしての商品性より、当時の時代背景が深く関わっている。前述のように四代目の計画が発進した'67年当時は、まだ「より大きくパワフルで豪華に」が正義だった。しかし、いざ本当に四代目が発売された'71年には、厳しい排ガス規制と安全規定の時代が迫っていた。四代目の全長が延びた裏には、時速5マイルまでの衝突ならヘッドライトなどに損傷を及ぼさない衝撃吸収バンパーを開発しなければならないからでもあった。その中でマッハ1仕様だけは、早くもウレタンバンパーを実用化している。当然、この四代目が世に出る頃設計が始まった五代目は、ふたたびダウンサイジングと軽量化をめざすことになる。'60年代の後半を通じて、当初はポニーカーを名乗っていたマスタングやカマロが軒並み大型化した結果、後から登場した新コンパクト勢(フォードでいえばピントやマヴェリック)にユーザーを取られ、気が付けば売れ行きが数年間で半減していたという事情もある。
そういう意味では、史上最大の四代目は、悲劇のマスタングでもあった。'74年から義務付けられることになった触媒やガソリンの無鉛化に対処すべく、圧縮比を下げるなどのデチューンを余儀なくされたのもこの四代目だった。触媒に関しては、EPA(環境保護局)が最低8万kmの耐久性を実証することを要求していたので、変速機や最終減速比の種類も減らさなければ、認証作業が追いつかなかった。しかも'72年からはデチューンに加え、カタログ上の出力表示もそれまでのSAEグロスからネット方式に切り換えたため(この点でもフォードはGMやクライスラーより後れを取った)、ベーシックな4.1リッター直6は145psから95
psに、V8の基本機種4.9リッターは210psから136psに、高性能版の5.8リッターは240psから168psに、大幅に数字が低下した。もっとも、ボス351モデル用の5.8リッターには各種のチューンがあり、新しい表示方法でも最強仕様は275ps(以前なら330ps級)を誇っていたが。
もっとも、表面的な数字は下がっても、むしろこれが本当の出力であり、ボス351は100km/hまで6秒、ゼロヨン14秒のダッシュ力を秘めるなど、それなりに高性能車の称号には値した。マッハ1もそれに準ずるフットワークを持っていた。そして、フロントがウィッシュボーン、リアが半楕円リーフで吊ったリジッドという常識的すぎるサスペンションにもかかわらず、最後にはラジアルタイヤもメーカーオプションとして用意されたため、それまでのどの世代のマスタングより良好なハンドリングも持ち合わせていた。やる気になれば『バニシングin
60』のような強引すぎるコーナリングでも、立ち上がりのパワーオンでみっともなく後車軸が暴れるようなことはなく、ただ激しく空転するだけだった。
とはいえ、そんな走行性能よりマッハ1は専用のグリルやストライプなど、主にルックスの点で求められるクルマだった。粗い格子のグリルや角形の補助ライトなどを含め、外観をマッハ1的にするキット(エクステリア・デカール・グループ)はほかのモデルにも使えたので、見た目だけのナンチャッテ・マッハ1も非常に多い。これらを総括して、不本意なアンチ性能時代に直面してしまった四代目マスタングは、「コスメティック・スーパーカー」とも呼ばれている。
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| 今回の取材車は、リムエンベリッシャー&センターホイールキャップを装着した鋼板ホイールを履いているが、この意匠は本来豪華仕様のグランデのもの。マッハ1の標準は、マグナム500と呼ばれる部分メッキのカバーなし鋼板ホイールか軽合金ホイールが基本だった。この時代のマスタングに標準でラインナップされたエンジンは、直6と4.9リッターのV8。高性能版の5.8リッターユニットは、オプション扱いだった。 |

取材車は'73年式の351ユニット搭載車。アメリカ車専門ショップ、T.N.K.Dynamiteの販売車両で価格は1,680,000円。ほぼオリジナルの状態をキープするレアな個体だ。新車当時の現地価格は、直6搭載のスタンダード・ノッチバックで$2760(ドル切り下げ以前の対円レートで約99万円)。それに対しV8(351)搭載のマッハ1は、$3088(約112万円)。'71〜'73年のマスタングは、トータルで135,267台が生産されている。 |
| FORD MUSUTANG(1971〜1973) |
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| ●全長×全幅×全高=4928×1905×1288mm●ホイールベース=2769mm●乗車定員=4名●車両重量=1359〜1459kg●エンジン形式=水冷直列6気筒OHV
12V/水冷V型8気筒OHV 16V、縦置きFR●ボア×ストローク(直6/V8)=93.4×99.3mm/101.6×76.2mm(302)101.6×88.9mm(351)●総排気量(直6/V8)=4097cc/4949cc(302)5752cc(351)●圧縮比(直6/V8)=8.0/8.5(302)8.6(351)●最高出力(直6/V8)=95ps/136ps(302)168ps、200ps、275ps(351)●変速機=3MT/4MT/3AT ※351エンジンは、3タイプ用意されていた。上記スペックは、膨大のバリエーションの中の一例。 |
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