自他ともに認める長距離ドライブ派の笹目二朗氏が、ヨーロッパの北の果て、ノルドカップを目指し、スカンジナビア半島を一周するドライブ紀行。
第2回は、いよいよミッドナイトサンを体験できる北極圏に入る。
この旅の目的地である、最北端のノルドカップはもうすぐだ。

文と写真|笹目二朗|J.Sasame

5月9日(日曜日)曇り

 コルゲン高原の朝は早い。5時頃に目を覚ますと、周囲はすでに明るく東の空が赤い。夕陽が落ちた方向との角度は90度もないだろう。かなり地球の自転軸に近づいていることを実感する。
 宿の支払いは、昨晩着いた時にとりあえずの宿代として390Nkr(1Nkr=17円)を払っていたから、夕食と朝食代として300Nkrを精算する。これを2食付き1泊料金と計算してしまうと高いと思うが、現地の物価に慣れてくると1クローネは10円の感覚になってくる。物価とレートは一致しないということだ。
 モ・イ・ラナで燃料補給。521kmの平均で16km/リッター以上走っている。ノルウェーに入ってからは、コンスタントに16km/リッター台を記録。平坦路では15km/リッター台だったから、アップダウンが続くと、下り坂で燃料カットが効果を発揮しているのは明らかだ。
 開けた雄大な雪原が見えてくる。ここより北極圏だ。地球儀を形どった冠をつけた柱がこの道の両サイドに連なり、それを結んだ線が北緯66度33分であることを示す。北極圏の定義は、1年のうち1日以上太陽が沈まない日があるエリアを指すから、山や谷で微妙に数字は変わる。
 ここに、ドライブインのような建物がある。以前ボルボの試乗会で連れてきてもらったことがあるのだが、その時より綺麗に改装されていた。ピンクの大理石のモニュメントが新しい。土産物を漁っていたら、780Nkrにもなってしまった。お店の女の子は、「アリガトウ」と日本語で言ってくれた。日本人観光客も多いのだろう。ここで、メガーヌの距離計は6829kmになる。
 その先、ボードーまで片道60kmを往復する。ノルウェー鉄道最北端の駅があり、線路がここで終わっているという様子を見るためだ。ここは2つのフィヨルドの間にサルトストラウメンという渦巻が発生し、それを見るツアーもある。
 ボードーは、思っていたより大きな町だ。駅舎は高いビルで情緒はなく、ディーゼルカーゆえに電気の架線もなく、ただ線路が終わっていて改札のゲートもない。
 またE6に戻って北上を続ける。ナルビクまであと100km位かと思った矢先、突然道は終点、先はフェリー乗り場になっていた。そして船は岸壁を離れたばかり……。
 そういえば、そこに着く少し前、北極圏らしい雪を冠った山並みや真っ青な海が見える高台のパーキングがあった。絶景とばかりに写真を撮っていたら、後続のクルマはすっ飛んで行く。あとで考えてみると、ドライバーはフェリーの発着時間を知っていて、急いでいたのだ。次の便は40分後にやってくる。吐き出されたクルマは、大型連結トレーラー3台を含む26台。我々の前のおいてけぼり組は、ボルボ740とフリーランダー。待っている間に、この人達と話していたら、来週はまた冬に逆戻りになるという。今週までは、異常気象の夏だったらしい。ノルドカップを見に行くと言ったら、「今週で良かったネ」と言われた。
 フェリー代は99Nkr。カードは使えず現金で払う。着陸点は渦巻いた石が途中で折れて削れたような奇怪な形をしており、ムンクが描いた雪山の絵はコレだと直感した。上陸と同時に、ドライバーは一気にスパートをかけていた。
 ナルビクで泊まろうと思っていたが、HYTTE=“入って”と読めるホテルを見つけて投宿。母屋の下全部を使える4人部屋で50ユーロ! 夕食はないが、キッチン付きなので手持ちの材料で作る。10時でやっと山の頂にある雪が赤く染まる。明日はノルドカップに立てるだろうか。本日の走行距離614km。

5月10日(月曜日)晴雨雪

 支払いは昨夜のうちに済ませてあるので、約束通りカギをドアに差し込んだまま出る。
 今日は雨が降ったり、雪が降ったり、晴れ間が見えたり、変わりやすいというか激しく変化。いよいよ北端に近づいた証拠か。
 アルタには、夕方5時頃に到着する。ここで世界遺産の「岩絵」を見ることを予定している。その美術館はすぐ判ったものの、外は明るいが開館時間は残り少ない。微妙なやりとりの後、やっと入れてもらえる(入場料70Nkr)。岩に描かれた、赤い色の絵がある場所は野外。広範囲に展開されている。戻った時、本館の出入り口は閉ざされていた。クルマに戻る時、猛烈なアラレに見舞われる。
 今夜はアルタに泊まって明朝ノルドカップに行こうとも思うが、とにかく一度まず見てから戻ってもいいと判断。最後の島へはトンネルで。2〜3kmガンガン下り、まるで奈落の底に落ちるようで不気味だ。1kmほどで水平になり、今度は登る。出口に料金所があり186Nkr払う。9時を過ぎている。この先にホテルはあるか? と訊くと自信たっぷりに頷く。しかし、そこから先もまだまだ長い。
 ノルドカップまで、まだ50kmはありそうだ。その先でひとつ部落を過ぎて、あと30kmの標識がある。山登りになり風も強く吹いてくる。外気温はマイナス4度。遠くまで見える山の稜線を走る道は、所々が雪で真っ白! だ。タイヤチェーンなんか持ってないが、この程度の雪はFF車なら問題なし、と思いながらも慎重に走る。前後にクルマなどまったくなしだが、周囲が明るいのが救いといえる。
 そのうちに、写真で見たことのある大きな館が見えてくる。やっと着いたと思ったら、本館は閉まっているし、人っ子ひとり見あたらない。とにかく寒い。電気が点いているので裏に回り、やっと人影をみつけてガラス窓を叩く。そこで聞いた言葉は、ここは宿泊施設ではない、ホテルは麓のホニングスヴォーグにある、という冷たいものだった。また30kmの雪山を戻らなければいけないのか……。
本日の走行距離797km。
  ついに到着。ノルドカップを見据える展望台にて。クルマと絡めて撮れる場所は、ありそうでない。また、直射が強くてカメラを向けられない。この時点で10時を過ぎているが、まだ太陽は岬よりも海よりも高い。



ここより北極圏。地球儀を形どった冠をつけた柱が、この道の両サイドに連なりその線が北緯66度33分であることを示す。あたりは、荒涼とした雪原が広がる。     北ノルウェーらしい岩盤の海岸線が、青い空と青い海に映える。こんな景色は、今までの曇り空ではまったく拝めなかった。
次の大きな町キルキネスまで1022km! ノルウェー人のパワーを感じる。最初に見たのは1200kmだったが、やはり記念に撮っておいた。     ボードー駅で最北端の鉄道の線路は終わっている。ディーゼルカーゆえに架線もなく、ただ線路が終わっていて改札のゲートもない。
海の端に川があれば、橋で越えてまた対岸を走る。山にぶつかればトンネルがある。海ならばフェリー……、そんな繰り返しが続く。     絶景にうっとりしている場合ではなかった。白い波頭のところがフェリー乗り場。飛ばしていたボイジャーは間に合ったようだ。
フェリー乗り場の対岸にみえる山が着岸先。着陸点は奇怪なカタチをしており、ムンクの描いた雪山はここだったのかと直感する。     今回の旅で2度目のフェリーに乗る。着いた先はすぐトンネルで、船着場だけフラットな場所が増設されている。
世界遺産の「岩絵」は、4000年前の石器時代の絵として認められている。赤い色は水に反応して発色するらしく、展示場所も自然のまま。木道があって、散歩コースになっている。当日は雨が降ってきて、クルマに戻るころにはアラレに変わっていた。天候は激しく変化する。     ノルドカップ・ハッレンの入場料は190Nkr。夏は深夜2時まで営業とある。ここがクルマで行ける最北端となる。
Copyright (C) GAKKEN CO., LTD. All Rights Reserved.