クルマを「ドライビングマシン」として楽しむのもアリなら、「ファッション」として着飾ってみるのも悪くない。
ならば当然、人生を楽しむ天才が作り上げたイタリア車、とりわけアルファGTのようなクーペがひときわ魅力的に映るはず。
だが世界を見渡せば、悩むに値する個性的なクーペはまだまだある。
ここはひとつ冷静になって、自分にベストな一台を考えてみよう。

リポート|熊倉重春|S.Kumakura  フォト|郡大二郎|D.Kori
 

 なんてことだ。アルファGTが本邦上陸を果たした途端、クルマ雑誌はもう大騒ぎ。とりあえず暴露しておくと、これを軸としたクーペの対決企画は、今月どのクルマ雑誌にもほぼ同じ形で載っている。
 まあ、そのこと自体がアルファGTの存在の大きさを物語っていると見ようか。さらに言うなら、世間の先入観の根深さも物語っている。アルファと聞いただけで「かっこいいモード」が点灯するのだから、そのうえクーペなら目がハート形にならないわけがない。これに乗るだけで、自分が華やぐのは本当だ。
 そう、ここでは「自分」こそ何よりのポイント。服装を選ぶことで自分自身の何たるかを表現するのと同じようにクルマを選ぶとすれば、今こそクーペが最大の標的になる。すでにミニバンが支配的な地位を占め、旧来のセダンを巻き込む形でクロスオーバー的な境地にまで進化しそうなのが乗用車界。そこでは家族や仲間が前提であり、そういうカテゴリーを選ぶことが何かの表現ではあっても、個々のクルマ選びでは個人的な価値観をあからさまにしにくい。
 だからこそ、これからはクーペが「自分だけ」のクルマとして輝きを増す。それぞれの自分にとっての位置付けはコスチュームでありペットであり、あるいはツールでもウエポンでもあり得るが、どんな観点からどういうクーペを選ぶかに自己表現がかかっているからだ。自己表現といっても、かなずしも他人に対してとは限らない。自分で自身を観察して華やぐことができるかどうか、自分を褒めてやれるかどうかが先決問題だ。あくまで自分だけの価値観で選ぶところに意味がある。だからパッセンジャーの居住性や快適性(特に後席の)など、逆に度外視したクーペである方がかえって意味を持つ。
 もちろんクルマである以上、ワードローブに何着も並べるスーツのようなわけにはいかないから、ある程度の汎用性も求めるのが普通だろう。だとしたら適度なサイズで普通にも走れる一方、あくまで主体的な運転感覚によって気ままに世塵を置き去りにすることもできる機能と性能も欲しい。そのうえで実用車としてギチギチに効率を追求するのではなく、ある程度の無駄も承知の贅沢感まで兼ね備えるとすればやはりクーペ。そこにアルファが投じた一石の衝撃は、ことのほか大きい。

 
今年6月に日本へやってきたアルファGT。内外装に147を思わせる造形をみせるが、そのキャラクターは156クーペと考えるのが正解。ややしっとりしたハンドリングは、156と共通となる2595mmのホイールベースがもたらすもので、軽快感命の147とは一線を画す。エンジンラインナップは2リッター直4+セレスピードと3.2リッターV6+6MTの2種類。デザインは最近アルファに急接近しつつある、カロッツェリア・ベルトーネ。

 クーペは特別という50年来のスタンスを、またもアルファは貫いた。だから外見には156の面影が少しもない。そのくせGTVやかつてのザガート系ほど理性を失わず、しっかり実用的であるところも注目ポイントだ。
 それにしても、この造形力には脱帽せざるを得ない。部分ごとに見ればアンバランスなのに、実際にはそんな細部より全体が目に飛び込んで来て、姑息な批判など封殺してしまう。パッと見て惚れるかどうかに賭ける気概が、クルマそのものに漲っている。
 それにこのデザインは、私たち東洋人にとっても都合がよろしい。一般にイタリアの洒落グルマには鼻ぺちゃのショーユ顔では太刀打ちできないが、これならぎりぎりセーフだろう。ぱっくり下まで開くテールゲートと容積の大きいラゲッジルームも、カジュアルなコスチュームとして点数が高い。青春時代をCR-Xと過ごした身としては、そこそこ年輪も重ねたいま、ふたたび颯爽と駆け抜ける相棒として、これを選ぶ理由はおおいにある。

 ドライバーの目からは、やはりV6エンジンが最大の魅力だろう。特に中速から吹け上がる過程での響きが感涙を呼ぶ。アルファが凄い(というよりモノの本質をわかっている)のは、3リッターから3.2リッターへの拡大に際し、安易なボアアップではなく、わざわざ高価なクランクまで新造してストロークを延ばしたところにある。これが古典的エンジンの良さを倍加したのは疑いもない。
 その一方で、シャシーがエンジン性能をカバーしきれていないことも忘れてはならない点だ。普段は操作に素直に反応し、きびきびスポーティだが、いざ本気になって攻め込むと、ある瞬間ポーンと前輪の反応がすっぽ抜けることもある。つまり深みに欠ける。これがGTAの脚なら理想的なので、将来そういう仕様も追加されることを祈っておこう。
 そこで結論。アルファGT(の3.2 V6)は、人間として成熟し重みも具え、いろいろクルマも経験し、達観も含みつつ熱いモビリティに未練も残す都会人に最適。そんな場合はお約束の真紅ではなく、渋めのボディカラーを選ぶと味わいも深まる。



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