写真を眺める限りでは、フロントが993時代に「先祖返り」した程度にしか思えなかった新型911。
だから、先月の試乗速報を読んだときは、正直その内容を頭から信じる気にはなれなかった。
だが、現地でステアリングを握った今なら自信を持って言える。
997という開発コードを持つ新型は、たしかに「最良の911」だった!

リポート|小野泰治|T.Ono(本誌) フォト|ポルシェ・ジャパン

 たとえば「丸形ライトを採用して空冷時代の雰囲気に戻ったのは消極的だ」とか、「インテリアが、らしくない」といった個人的嗜好で997、こと新型911にケチをつけるのはたやすい。長い歴史を持つモデルだけに、多くのファンのそれぞれに理想とする911像があるのはムリからぬこと。だが、感情論を排して新型に接すると、改めてポルシェという会社の懐の深さを思い知らされる。とりあえず、機能的な部分に関する不満は事実上皆無。そればかりか、個人的には世界一実用的な本格スポーツカーにして、いまや極めて完成度の高い現行996と比較しても格段の進歩を遂げている。
 それもそのハズ、新型では使われているパーツの実に80%が新設計で、996から流用したのは、めぼしいところだとルーフパネルやアンダーフロア程度なのだとか。'77年以降、ポルシェとしては初の複数モデル同時リリースとなる新型911で、ベーシックにあたるカレラのエンジンは基本こそ先代と同じ。しかし、その水平対向3.6リッターにしても吸気系をリファインして着実な進歩を遂げている。
 そんな新型のスペックを、こと細かに説明していたらキリがないので、早速インプレッションをスタートさせよう。今回、ドイツで行なわれた新型の試乗会で、最初にステアリングを握ったのは、ベーシックなカレラ。エンジンは、前述の通り996用を基本とする3.6リッターで、パワー&トルクは325ps&37.7kg-m。自慢のバリオカム・プラスなどに変更はないが、吸気系の改良により先代比で5psほどパワーは上がっている。
 一方、新型はドアに組み込まれたヘッド・エアバッグと、シート内蔵のソラックス・バッグからなるPOSIP(ポルシェ・サイド・インパクト・プロテクション)をはじめとするセーフティ・デバイス、オーディオやナビといったアメニティを司るPCM(ポルシェ・コミュニケーション・マネージメント)の標準化等、装備が大幅に充実している。しかし、アルミ製トランクリッドに代表される軽量化により車重は996と同レベルに抑えられる。
 だから、新型の動力性能は、事実上996と同じと考えていい。実際、0〜100km/h(5秒)をはじめとする加速データは全く同じだ。体感上も、試乗車に関する限りは「若干、高回転の伸びが良くなった?」という程度で、吹け上がりなどに変わりはない。
 だが、996カレラが新型と互角なのは残念ながらここまで。まず、即座に意識されられるのが、格段に向上したボディの剛性感。クーペボディに関する限り、996も剛性感は十分以上だったが、新型のボディは硬い殻の中で守られているかのような印象で、クルマ全体の密度が上がっているような印象すら受ける。
 実際、全長が先代より3mm短く、全幅は逆に38mmの拡大となる新型のボディは、数値上も剛性が上がっている。Aピラーとルーフフレーム連結部分の最適化や、サイド・セクションとフロア・メンバーの結合に新しいスポット溶接を採用した結果、996比でねじり剛性は8%、曲げ剛性では40%向上しているという。もちろん、クルマ全体の剛性感はボディだけで得られるものではなく、シャシーの素性も大きく影響してくる。新型も、ホイールベースこそ先代と変わらないが、前後サスペンションには大幅に手が加えられている。
 まず、フロントはアクスルのクロスメンバーを左右共に延長することでトレッドを従来より21mmワイド化。ロール剛性を高めている。同時にホイールベアリングの強度もアップさせ、アーム類のブッシュも高周波の振動を抑制するタイプに変更。リアも、トレッドは34mm拡大。新開発となるアルミ製サブフレームや、上下方向にマウントのスパンを拡大したコントロールアームなどで横方向の剛性を大幅に向上させ、同時にホイールキャリアの剛性も高めている。
 こうしたシャシーのリファインは、ハンドリングにも着実な進化をもたらしていて、これも新採用となる可変ギアレシオのステアリング(ロック・トゥ・ロックは従来の2.98回転から2.62回転へと減少)を切り込むと、まずクルマの動きが極めて正確、かつシャープなことに気付く。
 試乗車はオプションの19インチを履いていたが(カレラの標準は18インチ)、そのタイヤを通じて伝わる路面からのインフォメーションは豊富で、コーナーに進入するときの安心感では明らかに996を上回る。クルマ自体の挙動は、基本的に弱アンダー傾向に躾られているが、ラインを外してしまった時などの修正も容易。今回は、あいにくリアの限界を安全に試せる環境ではなかったが(もちろん、ESCにあたるポルシェ自慢のPSMもオンのまま)、安全マージンを多めに取った状況でもスポーツカーらしさは十分に満喫できた。
 だが、新型で個人的に感銘を受けたのは、極めて強力なトラクションだ。クリッピングからアクセルを開けると、それこそ路面にタイヤを擦りつけるようにしてコーナーを脱出する感覚は、他のクルマでは得られない刺激のひとつ。また、そんな場面でのライド感も極めてソリッドだ。
 ちなみに、カレラの足回りは後述するカレラSのようなアクティブ制御ではないが、乗り心地にも不満はない。硬めではあるものの不快な突き上げとは無縁で、スポーツカーとしての快適性は極めてハイレベルだと思えた。
 
ノーマルカレラとカレラSにおける外観上の主な識別ポイントは、エンブレムとテールパイプ。カレラSがツインパイプなのに対し、カレラはオーバルデザインになる。
  フロントアクスルへのダウンフォースを強めるだけでなく、エアフローをサイドからリアスポイラーへと導き、その効果を増大させるというデュアルアームのサイドミラー。
質感の向上が著しいインテリア。5連メーターは、左から油温(従来はボルト)、スピード、タコ、水温&燃料、油圧。「スポーツ・クロノ・パッケージ」に含まれるクロノグラフは、視覚的アクセントとしても有効。マルチファンクション・ステアリングやPCM(ポルシェ・コミュニケーション・マネージメント)等は最新モデルらしい装備だが、「らしくない」という声も……。
リアは相変わらず「オマケ」程度だが、フロントシートは新開発で、サポート性、快適性を大幅に向上させつつ約6kgの軽量化を実現。オプションのアダプティブ・スポーツシートは、サイドセクションを4方向に調整できる。



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