インスパイアには様々な最新技術が投入されていた。
しかし同時にそれは、エコや安全を謳うあまり、ドライビング・プレジャーは今後残されていくのか、という不安も抱かせた。
トレンドは自動運転なのか、と。
そこで萩原と編集部は、本田技術研究所へと向かった。
ホンダ高級サルーンの方向性を確かめるために――

リポート|萩原秀輝|H.Hagihara フォト|小林俊樹|T.Kobayashi
取材協力=本田技研工業 TEL:0120-112-010  本田技術研究所

――'04年は、高級サルーンの年になる。その先駆けとなったのが、'03年に誕生したインスパイアだった。ただ、かつての日本の高級サルーンであったならば、クルマに興味を抱く者にとって注目すべき対象とはなりにくかった。車名そのものがいわばブランドとなり、それに全般の信頼を寄せる人々が、検討さえすることなく選択するといった類のクルマだったのではないだろうか。
 だが、内実はそうではなかった。各メーカーの威信を賭けた存在であり、持てる先端技術を最初に投入する対象こそが日本の高級サルーンだった。したがって、その内容には日本のクルマが目指す将来の姿が映し出されているといっても過言ではい。本誌リポーターの萩原も同じ考えを持っていた。
「日本の最高級サルーンから目が離せない。各メーカーが、新たな動きを示しつつある。それは欧州のメーカーが築き上げてきた伝統に裏付けられた技術とは異なる、未知の領域への胎動といってもいい。だが、それが現実となることに一抹の不安を感じてもいる」
 萩原が抱く期待と不安。編集部としても、萩原の考えを知るほどに内実を明らかにしなければならない使命に駆られていた。そしてこの企画がスタートした。
「ホンダの動きが気になる。今年4月のニューヨーク・ショーでアキュラ『RLプロトタイプ』を発表したが、すでに昨年フルモデルチェンジを実施したインスパイアにも数々の技術が具現化されている。それは近未来の最上級サルーンを予測する布石になっているのかもしれない」
 その考えを検証するため、編集部と萩原はホンダのシンクタンクといえる本田技術研究所へと向かった。途中、萩原はインスパイアのステアリングを握りながら、最新技術のひとつひとつを改めて確かめていた。その表情には、やはり期待と不安が交錯していた。
―― 一行は栃木の本田技術研究所に到着した。本館ロビーには、ホンダが手がけた歴代のレース専用エンジンが展示されていた。地上の湿気をすべて天空に納めたかのような梅雨を目前にした最後の快晴の日、話を聞いたのはインスパイアの開発責任者を務めた安木茂宏・主任研究員だった。
萩原 インスパイアのアクセルを踏み込みながら、ホンダのエンジンの在り方を改めて感じていました。高回転域へと誘うような吹け上がり感、燃費の改善を目指していながらこの走りを得ていることに何かがあると……。
安木 燃費に振ったエンジンであることは確かです。ただし、ホンダのエンジンであるからにはパフォーマンスはクラスの最高レベルを目指します。どのクルマもHマークを持った瞬間に、運転する楽しさは切り離せなくなります。
萩原 3リッターで250psというパワーは、欧州車でも例がない。しかもレギュラーガソリン仕様で、それを実現している。それでいて、3気筒を休止させる可変シリンダーシステムという革新的な技術も採用している。この技術は、今後のエンジンの基盤になっていくのですか。
安木 V型6気筒エンジンについては基盤技術になるでしょう。
――6気筒のうち、クルージング中などの低負荷時に後方のバンクだけを3気筒休止させて燃料消費を低減。さらに、休止シリンダー内を密閉状態にすることで、吸・排気にともなうポンピングロスを抑え、クラスを超えた低燃費を実現している。
 萩原は、その技術が基盤となりさらに発展する可能性を秘めていることを知っていた。


萩原 将来的には、ハイブリッドとの組み合わせも視野に入っているわけですね。
安木 その可能性もあります。今年のデトロイト・ショーで、北米仕様のアコードに3リッターのV6とIMA(ホンダのハイブリッドシステム)を組み合わせたモデルを発表しています。とくに、可変シリンダーシステムは機械的損失が少ないので、モーターが回生する際のエネルギー効率が高くなります。
萩原 なるほど、IMAとの組み合わせには期待が持てますね。ただ、可変シリンダーシステムについていうと、気筒休止の際の問題があったわけですよね。
安木 6気筒燃焼と3気筒燃焼を繰り返し使い分けるため、音やトルク変動の問題が発生します。それを克服するために採用したのが、アクティブノイズコントロールとアクティブコントロールエンジンマウントです。
萩原 その効果でしたか。3気筒燃焼時に発生しがちなこもり音が気にならなかったし、トルク変動も皆無でした。メーター内のECOサインを見なければ、可変シリンダーシステムが機能していることさえ気付かないほどでした。
安木 DBW(ドライブ・バイ・ワイヤ)の採用も重要な役割を果たしています。他の技術と協調しながら、より緻密なスロットルコントロールを実現し自然な応答性が得られるようになっています。
萩原 実は、不安だったのがそこです。DBWには人の意志を予測するような機能も含まれているので、将来的には自動走行につながり運転する楽しさが損なわれてしまうのではないかと……。
安木 その心配はありません。
――安木の答えからは、確信が感じられた。
安木 数ある工業製品の中で、クルマにだけ味わいがあります。エモーショナルであるとかアグレッシブであるとか、そうした数値一辺倒では表現できないない味わいがある限り、クルマが無機質な自動走行を目指す移動手段になることはないと思います。
萩原 安心しました。たとえば、インスパイアが採用するレーンキープ・アシストシステムなどの運転支援機能もそうなのですね。
安木 その通りです。運転支援機能は運転の負荷を軽減するための技術です。むしろ、それによって運転を楽しむ余裕も生まれます。
――萩原が抱いていた期待と不安は、今回の取材を通して整合性が確認された。ほかにも、インスパイアは数々の革新的な技術を採用している。それらは、ほとんどが運転する楽しさに結びついた。その走りは、次の最高級サルーンにも受け継がれるはずだ。
 
本田技術研究所 LPL室 主任研究員
安木茂宏 Shigehiro Yasuki
  `81年入社。初代インスパイアのドア設計、`94アコード、`98アコード、およびシビックのボディ/エクステリアPLを担当した後、現行インスパイアの開発責任者を務める。趣味は音楽鑑賞、ギター、ゴルフなど非常に多彩。愛車はアコードSiRとインスパイア・アバンツァーレ。

key word 1:[可変シリンダーシステム]
VTEC機構を進化させた新開発の3リッターV6SOHCエンジンは、横置きされるV6の片側3気筒(リアバンク側)を状況に応じて休止させることができる。例えば発進・加速時や登坂時は6気筒すべてを作動させて高い動力性能を確保、クルーズ時などは片側3気筒を休止させて1.5リッターの状態で走行、2リッター車に匹敵する11.6q/リッターという優れた燃費性能を実現する。
key word 2:[HiDS]
カメラが捉えた画像をもとに車線を認識し、ステアリングに適切なトルクを発生させて車線維持をアシストするLKAS(車線維持支援機能)。さらに、フロントグリル内のミリ波レーダーによって前走車との距離を測定し、車速・車間を自動制御するクルーズコントロールシステム、IHCC(車速/車間制御機能)を組み合わせた高速道路運転支援システム
key word 3: [CMS+E-プリテンショナー]
ミリ波レーダーが検知した前方車両に接近すると、まず警報でドライバーに知らせる。さらに接近したら軽いブレーキで警告、追突回避困難な場合には強いブレーキ制御を行なう。これがCMS(追突軽減ブレーキ)で、それと連動して運転席のシートベルトを軽く引き込んで警告、さらに衝突の際は強く引き込んで被害軽減を図るのがE-プリテンショナー。

Hマークを背負った瞬間、運転する楽しさは切り離せなくなるのです。

<安全・環境・運動性能を併せ持つ高速ツアラー>
3リッターV6ユニットは250ps/30.2s-mを発揮。燃費性能だけでなく、排ガスのクリーン性能も高められ「超-低排出ガス(★★★)」認定を取得。レギュラーガソリン仕様という点も見逃せない。もちろんホンダ・セダンならではのドライビング・プレジャーは健在。
 
HONDA INSPIRE AVANZARE
■全長/全幅/全高(mm)
4805/1820/1455
■ホイールベース(mm)
2740
■車両重量(kg)
1560
■エンジン種類
V6SOHC24V
■排気量(cc)
2997
■最高出力(ps(kW)/rpm)
250(184)/6000
■最大トルク(kg-m(Nm)/rpm)
30.2(296)/5000
■トランスミッション
5AT
■サスペンション(F:R)
Wウィッシュボーン:
5リンク・Wウィッシュボーン
■ブレーキ(F:R)
Vディスク:ディスク
■タイヤ(ホイール)
205/60R16
■東京標準現金価格(税込み)
¥3,675,000
※上記スペックは本誌発売当時の値です。



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