クロスファイア・ロードスターは、生い立ちを考えると少々奇妙な存在だ。
なにしろ一度は閉じたものを作り手が自らの手で再び開けてしまったのだから。
だが、それは正しい選択だった。
なぜなら本来の持ち味は維持しながら、クーペにはない魅力を湛えていたからである。

リポート|渡辺敏史|T.Watanabe フォト|ダイムラー・クライスラー日本

 '90年代後半以降、アウディと共に、自動車デザインのトレンドをリードしてきた会社といえばクライスラーだろう。ショー用のコンセプトカーもともあれ、ラムやプロウラー、あるいはPTクルーザーといった市販車で彼らが打ち出した温故知新的コンセプトは、ご近所のフォードを筆頭に、多くのメーカーが後を追うこととなった。
 一方で、クライスラーデザインには各モデルに横の繋がりが薄いという課題があった、らしい。たとえば、ラムとPTクルーザーにはニュアンスで連続性が感じられたとしても、明確なディテールの共通性がないと。
 僕はそれをネガだとは思わなかったが、ルノーやBMWを筆頭に、各々の独自性の主張が強くなされている昨今の業界的事情にあって、現状をよしとしない彼らの意向もわかるような気がする。
 メルセデスのコンポーネンツを使ったクライスラーのラインを構成するにあたっての、より統一されたクライスラーデザインの表現。涙滴調のヘッドライトやスリット入りのボンネットフードという共通項を持つ、クロスファイアや300Cにはそういう彼らの目論見も込められているわけだ。
 そんなクロスファイアのロードスターモデル、その屋根はベースモデルのメルセデスSLKが格納式ハードトップをウリとしているのに対して、一般的な電動ソフトトップを用いている。もちろん別立てで2シータークーペが設定されていることもあるが、このデザインに組み合わせるものとして、むしろこちらの方が相性がいいというのが彼らの主張だ。ちなみに幌の艤装も含めた製造は、クーペと同様にカルマンが担当する。
 22秒という開閉時間は、幌屋根という優雅さに免じよう。そう思えるほどクロスファイア・ロードスターの佇まいは美しい。同じく絶品であるクーペの意匠の要、キャビン部をバッサリ切り落とすことでどういう映り方をするのだろうという心配はあったが、これなら、ただ屋根が開いて開放感があるという以上の意味がある。
 しかも、意味があるのは見てくれだけではない。
 ハコ車を元ネタに屋根を切ってオープンにするのと同じくらい、オープンを元ネタにハコ車を作るのは難しい。アシの能力とボディ剛性とのバランスが往々にして崩れてしまうからだ。
 クロスファイアのクーペも然りで、そもそもオープンカーとして設計されたところに固定された屋根が載り、入力が発散される場所が塞がれた結果、パツパツに張りつめたような乗り味と、とりあえずESPは必携というピーキーな挙動を招いている。綺麗な路面を目を吊り上げて走るならまだしも、普段乗りではその気の抜けなさが辛い、そんなクルマだった。
 その屋根が抜けたことによって、ロードスター版のクロスファイアは本来の能力を取り戻したのだと思う。フロア下はクロスメンバーとブレースによって補強を受けているが、それでもうねりや轍のいなしはクーペよりも歴然と優しく、大きな負荷の掛かるコーナーでもクルマの動きが幾分は穏やかになっている。ゲインをじんわりと絞り出すようなフィールを持つリサーキュレーティングボール式のステアリングに対して、オーバースペックなタイヤが付いているがゆえの不自然さは残るが、気を許して走れ、安心して飛ばせるという懐の大きさは、クーペよりもむしろこちらの方が上だろう。
 もちろんデザインを優先するなら、このクラスで唯一アウディTTに対抗できる華があるクーペ版の存在は大きい。が、屋根が開くという大技も含め、クロスファイアの本筋はロードスターにあるのではないだろうか。ちなみに日本市場への導入は今秋の予定だ。
 
  クーペ同様、高速時(100km/h以上)には車速感応式のリアスポイラーが立ち上がる。シート後方には、サテンシルバーのスポーツバーが備わる。その走りは、主に限界時の挙動においてクーペよりナチュラルな仕上がり。
  インテリアは、基本的にクーペと同じ。ソフトトップの開閉スイッチは、センターコンソール上。ただし、開閉時はフロントウインドー上端のロックを解除する必要がある。
  試乗車のものはプロトタイプだったが、スポーツバーの間には、風の巻き込みを防止するウィンドディフレクターもセットできる。
  クローズド時なら190リッターの容量を確保するラゲッジスペース。ソフトトップ収納時は、104リッターとさすがにミニマム。開口部も小さい。
  3.2リッターV6のスペックは、クーペと変わらず。ミッションは6MTと5ATの2タイプが用意されるが、8月に上陸する日本仕様は当然後者。
  個性的なクーペのグリーンハウスをソフトトップに置き換えたクロスファイア・ロードスターだが、華のある佇まいは相変わらず。高速域の静粛性にも配慮したというソフトトップの開閉時間は、およそ22秒という。


 
CHRYSLER CROSSFIRE ROADSTER
■全長/全幅/全高(mm)
4058/1766/1315
■ホイールベース(mm)
2400
■トレッド(前/後)(mm)
1493/1502
■車両重量(kg)
1440
■エンジン種類
V6SOHC 18V
■排気量(cc)
3199
■最高出力(ps(kW)/rpm)
218(160)/5700
■最大トルク(kg-m(Nm)/rpm)
31.6(310)/3000
■トランスミッション
5AT
■サスペンション(F:R)
Wウイッシュボーン/コイル:
マルチリンク/コイル
■ブレーキ(F:R)
Vディスク:ディスク
■タイヤ(ホイール)
F:225/40ZR18(7.5J) R:255/35ZR19(9J)
■東京標準現金価格
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