ダイナミックなエクステリアを纏ったクライスラーの新しい旗艦、300Cは古き佳きアメリカ風味を現代のセンスで楽しめる逸品だ。
ハードウェアのウリは、復活した伝統のV8「HEMI」ユニット。
しかし、むしろ注目すべきは、このマッチョなビッグセダンが国際レベルのフットワークを身につけていることだった!

リポート|熊倉重春|S.Kumakura フォト|ダイムラー・クライスラー日本

 クライスラー300Cは、気持ちのいい奴だ。近頃こんなに明確に「セダンらしいセダン」は珍しい。誰も彼も小利口にまとまりたがる昨今なのに、300Cは違う。伝統的な価値を重んずる正直者に、これほど合うセダンはない。
 そして300Cは、これからクライスラーが何をめざすのかを示す里程表としても注目すべきクルマだ。北米中心主義からの本格的な脱却が、ここにある。すでにPTクルーザーで国際車を宣言し、クロスファイアで米独のコラボレーションを実現したクライスラー。今度は300Cによって、古き佳きアメリカン・マッチョ風味に、国際基準の薬味を効かせてきた。あらためて考えるまでもなく、今までの日欧にこんなクルマはない。そういう意味では、とても新鮮なスポーツセダンでもある。だから単にパワフルな「アメ車」ではないのに、その良さも余さず演出できているのが最大の魅力だ。
 まず輪郭を紹介すると、全長5m級はSクラス、ジャガーXJ、セルシオなどとほぼ同等。ただし幅があるうえにバシッとボクシーなスタイルなので、量感は他を圧倒する。最近はルーフを短くクーペ的に感じさせるセダンが流行しているが、300Cはそんな軟弱なのとは違い、机をドンと叩いて「セダンってのはなあ、こういうもんだ」といい切った強さがある。
 粗い格子の角張ったグリルと独特の輪郭を持つヘッドライトも、これから当分クライスラーのアイデンディティになる。すでにクロスファイアから採用された路線だが、太いペンで一気に描ききったようなセンスは、ダッジなどのトラックで培われたものと思われる。このノーズから思い切り高いウェストラインを引き、その上に圧縮されたようなグリーンハウス(といっても、絶対的なサイズがあるから、実際には大きい)を載せ、迷いのない円形ホイールアーチに大径のタイヤを押し込んだのが基本形。対面した瞬間、まず細部より全体に目が行くのも、強いデザイン力がみなぎっている証拠だ。
 機構面では、これまでクライスラー・セダン系の特徴だったFFから、ごくオーソドックスなFRに切り替わった点が新しい。だからこそ、前進感に満ちたキャブフォワード・スタイルからボクシーなフォルムへの路線変更も可能になったわけだ。この理由について300Cの商品企画を統括したジョー・ブレイズは、
「大排気量のV8を積むには、FFだと前のオーバーハングが長くなりすぎて、全体のバランスが取れないんです」
 と説明している。その裏には、アメリカにおけるクライスラーの牙城である中部サンベルト地帯のユーザーが非常に保守的で、未だにFFに難色を示しがちという事情もある。その反面、東西両海岸はFFで問題ないどころか、ミッドサイズ以下の方が歓迎される空気も濃いので、そのクラスでは今後もFFを踏襲するそうだ。


 そんな背景から生まれた300Cは、乗った途端に先入観を覆す。見ためとは裏腹に、ほぼ完全に国際基準で語れるフットワークを発揮するのだ。メルセデスやBMWのような緻密感こそ乏しいが、表現できる現象には大きな違いがない。そもそも南仏プロヴァンスで国際試乗会を開いたこと自体、その点で自信があることの証明だろう。ほとんどどんなコーナーでも軽いアンダーステアのまま、サラッと通過できてしまう。ロールも非常に小さいし、タイヤが鳴くなどほとんどない。乗る前は、強大なトルクがしゃしゃり出て、それをESPがカバーするのだろうと予想していたが、実際には(乾いた路面なら)電子制御の助けなど必要とせず、クルマ本来の能力で安定性を保てている。前ダブルウイッシュボーン/後マルチリンクのサスペンションは、基本的な考え方はメルセデスEクラスなどから導入したが、実際の部品は300C専用に開発されている。
 そんな走行感覚の素になる強大なトルクを生むのは、誇らしげに伝統の称号「ヘミ」を名乗るV8ユニット。未だにプッシュロッドOHVとは古臭くさそうだが、おかげでヘッドまわりはコンパクトにおさまり、とても5.7リッターもあるようには見えない。Vの谷間にあるカム一本から二方向にプッシュロッドを伸ばし、ロッカーを介してバルブを駆動する半球形燃焼室が「ヘミ」の語源。もう50年も前からクライスラー高性能セダンを象徴するメカニズムだ。
 さすがに5.7リッターだけあり、特に踏みはじめの低〜中速域の筋力には痺れる。ボボボ――と低く唸るだけで、これほどのボディを蹴飛ばすように発進させるのだから。この荒っぽいフィーリングは、たとえばメルセデスならSL55AMGでなければ味わえない。その一方、このV8は知的な顔も持つ。大パワーを必要としない定速走行や、ごく軽い加速時には8本のうち4本を休止させ、臨時に2.85リッターのV4に変身してしまうのだ。これは130km/h以下でアクセル操作を感知して行なわれるのだが、反応時間は0.04秒に過ぎず、切り替わりも非常にスムーズで、その瞬間をドライバーとして感じることはできない。
 室内の仕立ては、アメリカンとヨーロピアンを足して2で割ったような雰囲気だ。もちろん装備は十分以上で、ペダルの位置まで電動で調節できる(テストの結果では、最奥部がちょうど良かったが)。ただし後席に座ってみたら、それまでの高評価が音をたてて崩れた。広さでは7シリーズを上回るというのに、座り心地が最低なのだ。クッションが平らすぎ、どうしても尻が前に滑りだすため、ちゃんとした姿勢を続けられない。アメリカ車の欠点をそのまま受け継いだ形で、画竜点睛を欠くとは、まさにこのことだろう。この後席バックレストは折り畳むことができ、その場合トランクの奥行きは2mにも達する。
 こんなクライスラー300Cは、日本では今年の秋か年末に発売の予定。車種は5.7リッターの「ヘミ」のほかに3.5リッターのV6を搭載した仕様もあるが、本当の味という意味ではやはりV8を選ぶべきだろう。とりあえずは左ハンドルからだが、来年の夏までには右ハンドルも用意される。もともとイギリスやオーストラリアなど、右ハンドル圏も視野に入れて開発したところも、クライスラーの新路線を示している。そういえば、これをベースとしたツーリング(ワゴン)も半年遅れで発売される。こちらはメルセデスの4マチックに似た4WDもあり、セダンとともにクライスラーのカナダ工場で生産されるが、北米で売る予定はなく、すべて輸出専用だという。たしかにアメリカでは、セダンベースのワゴンは絶滅に近い。それを承知で開発したのも、国際展開が第一という表れだ。
 
  5.7リッターのヘミV8に組み合わせるミッションは、マニュアルモード付き5速AT。ギア比は(1)3.58 (2)2.19 (3)1.41 (4)1.00 (5)0.83 (R)3.17。ファイナルは2.82。
右上は初の「HEMI」搭載車となった'55年型のC-300。「HEMI」の語源は、この時代からクライスラーの高性能車用エンジンに採用された半球形(ヘミスフェリカル)燃焼室とか。現代に蘇った“ヘミ”は、条件(130km/h以下で一定速走行、もしくはエンジンブレーキ状態)に応じて2.85リッターのV4になる気筒休止システムを採用。優れた経済性を実現する。
  タイヤは、60偏平の18インチ。フロントブレーキのディスク径は345mm!
べっ甲模様のアクセントを随所に配したインテリアは、適度にアメリカンなテイスト。もちろん、装備は十分以上。たとえばオーディオは、プレミアム・ブランドとして知られるボストン・アコースティック製だ。
  リアシートは、BMW7シリーズやメルセデスのSクラスに勝る広さ。ただし座り心地については、いまひとつのレベルにとどまる。
  大柄なボディだけに、ラゲッジルームは504リッターとさすがに広い。分割可倒式リアシートを倒すと、荷室の奥行きは2m近くまで伸びる。
  粗い格子のグリルと独特なライト形状は、クロスファイアに通じるイメージ。FR駆動のセダンだが、メルセデスと共用のパーツは意外と少なく、基本的にはクライスラーのオリジナル開発となる。
  アメリカンなエクステリアだが、フットワークは国際基準。足回りにはメルセデスEクラスのノウハウが多数採用されているが、部品自体は専用品。ちなみに、日本に今冬来るのはセダンのみ。ワゴンの導入予定はない。


 
CHRYSLER 300C SEDAN
■全長/全幅/全高(mm)
4999/1881/1483
■ホイールベース(mm)
3048
■トレッド(前/後)(mm)
1600/1603
■車両重量(kg)
1840
■エンジン種類
V8OHV 16V
■排気量(cc)
5654
■最高出力(ps(kW)/rpm)
340(250)/5000
■最大トルク(kg-m(Nm)/rpm)
53.4(525)/4000
■トランスミッション
5AT
■サスペンション(F:R)
Wウイッシュボーン/コイル:
マルチリンク/コイル
■ブレーキ(F:R)
Vディスク:Vディスク
■タイヤ(ホイール)
225/60R18W(7.5J)
■東京標準現金価格
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※上記スペックは本誌発売当時の値です。



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