昨年のジュネーブ・ショーで発表された、ランチア・イプシロンがようやく日本にも上陸した。
イプシロンといえば「小さな高級」というコンセプトを現代に定着させた功労者的存在だが、その伝統はやはりダテではない。3代目では、独自のテイストにさらなる磨きが掛かっていたのである。

リポート|熊倉重春|S.Kumakura フォト|郡 大二郎|D.Kori

 率直なところ、新型ランチア・イプシロンのスタイリングを先代とくらべると、いささか退化して見える。ガッと自在に線を引いたのが先代なら、今度はビッグ・ランチアを無理やりリッターカー・サイズに押し縮めたような窮屈感が惜しいかもしれない。
 しかし「なぜ今イプシロンか」を考えれば、ある意味で当然のデザインだともいえる。ただコンパクトなだけのクルマではないからだ。「これからの都市生活では、小型車こそ主役」の中で、イプシロンの役割はとても大きい。
 21世紀を迎えて間違いなくトレンドの焦点になるのは「小さな高級車」。とはいえ、クルマ生活のダウンサイジングが善だと理解はしていても、ビッグセダンなどに馴染んでしまった富裕層としては、単純にクルマが小さくなるだけでは、落ちぶれたような気がするので抵抗がある。そこで脚光を浴びるのが、普通ではないエクステリアに品位あるインテリアを組み合わせ、なおかつコンパクトで機動性の高いクルマというわけだ。そのうえブランドがランチアなら、誰も文句はあるまい。
 もちろんランチアは今フィアットの傘下だから、このイプシロンも中身の機械部分はほとんどプントなどの小型車と共通。それをテージス譲りの優雅なスタイルにまとめ、皮や高級なファブリックのインテリアで包んだ結果、およそ比較するもののない「都会の洒落グルマ」として、独特の雰囲気を漂わせている。普段フォーマルセダンの後席にふんぞり返っているお偉方が、ちょっとした買い物など個人的に出かけたい「お忍び」用として、まさにどんぴしゃりといえる仕上がりだ。
 ざっと成り立ちを観察しておくと、フロントに横置きの4気筒ツインカム1.4リッター(95ps)は、コンパクト・フィアット系では新顔に属するが、基本的な性格付けはいつも通り。どことなく挑戦的な雰囲気で、引っ張れば引っ張るほど「もっと踏め」とせがむ。
 その他の多くも、基本的にはプントと酷似している。ホイールベースこそ2388mmとやや短いものの、シャシーの基本構成から細かいメカニズムまで「ああ、あれか」ぞろいだ。
 もちろん走る感触も「ああ、あれか」に満ちている。前述したエンジンのフィールもそうなら、ノッポに見えて実は重心が高くなく、パシッと鍛えた腱で路面を押さえるサスペンションの感触もまさにプント。いや、こちらの方が細かいショックの吸収性は優れ、小型車らしからぬ重厚感もある。開発時期が後だっただけに、たとえば関節部分へのコンプライアンスの与え方などが改良されたのだろう。ラバーブッシュにおける硬軟の方向性は、微妙で重要だ。
 それにしても、全体を貫く俊敏さはたいしたもの。どんな操作にも鋭敏に反応し、そのくせコーナリング中に思い切りアクセルを戻したり、ある程度ブレーキを踏んでも姿勢が乱れない。例によってステアリング(電動アシスト)も正確きわまるから、全長わずか3.8m級のコンパクトさを活かして、車線から車線に桂馬飛びするのが楽しくて仕方ない。オープンロードも楽しめるが、やはり基本的には街のミズスマシだ。
 ここで気に入ったのは、5速MTの手応えがカチカチ快いこと。ダッシュ中央から張り出した半島の上に配置されているのでノブがステアリングから近く、そのくせレバー自体のストロークも短い。プジョー系ミニバンやシビック・タイプRもそうだが、このようにアップライトな着座位置に対しては最も好ましい。横置きパワープラントのFFなのだから、手元のレバーが高かろうと低かろうと、どのみち遠隔リンクに変わりはないはずだし……。
 室内の使い勝手も、シティラナバウトとして万全。特に前席のスペースは、こんな小型車とは思えないほど余裕がある。反対に後席は、まあ我慢できないことはないという程度。ここが前後に10cmスライドするのも、本来60cmしかない荷室の奥行きを稼ぐ非常用。というより、もともとイプシロンは2シーターとして使うべきクルマで、実質的にはクーペ。近々観音開きの5ドアが出るとの噂もあるが、それもバッグやコートをさっと置くためと解釈すべきだ。だからこその観音開きなのだろう。
 こんなインテリアの最大の魅力は、なんといっても色調や質感にある。上品なテキスタイル系だけでも8種類、アルカンタラ(人造スエード)を含む皮系も6種類そろえ、色の取り合わせも無数にあるが、どこから見ても大衆車の匂いがない。ここにも「なぜ今イプシロンか」の答がある。
 ただし残念なのは、現在ランチアがいっさい右ハンドルを作ってくれないこと。都会のファッションでもあるイプシロンだけに、左側ぎりぎりに停めて乗り降りに苦労し、衣服を汚したりしたのでは台なしではないか。機構的に共通点の多いプントには右仕様があり、ましてやイプシロンはセンターメーターなのだから、左右の作り分けも容易なはず。それがあれば、けっこう本気で欲しいと思う。
 
  今回、ガレーヂ伊太利屋が導入したのは1.4リッターの5MT仕様。ギア比は(1)3.909 (1)2.158 (1)1.480 (1)1.121 (1)0.897 (R)3.818で、ファイナルは3.860。本国には1.2リッターガソリン(60psのシングルカムと80psのDOHC)、そして1.3リッターディーゼルもある。

  複雑な面構成が特徴的なリア回り。ボディカラーは、写真の「パガニーニ・アイボリー(日本では50,000円のオプション)」をはじめ計11色を用意。各色には、すべてイタリアの芸術家の名が冠される(ブルーはビバルディ、ライトグレーはロッシーニ等々)。
  ホイールは14インチが標準だが、ガレーヂ伊太利屋の販売車は15インチアルミを装着。
  走りのキャラクターは、ベースとなったプントに近い。上品な佇まいながら、俊敏な身のこなしが光る仕上がりだ。その一方、快適性には一層の磨きが掛かっている。小型車らしからぬ重厚感は、まさに「小さな高級車」に相応しい美点といえるだろう。



ガレーヂ伊太利屋で販売されるイプシロンのシートは、レザー仕様が標準。雰囲気はご覧の通り。ソフトな座り心地も、このクルマのキャラクターに合っている。オプションでアルカンタラ、カラフルな色使いの「グラマー」仕様をチョイスすることもできる(それぞれ100,000円高)。乗車定員はリアが2人掛けの4名が基本だが、1名分のシートベルトとヘッドレストを追加して5人乗りとすることも可能だ(25,000円のオプション)。ただし、リアシート絶対的なスペースはサイズ相応。

  サイズを考えれば、ラゲッジスペースは十分といえるレベル。ダブルフォールディング式の分割可倒式リアシートには前後スライド機構も付き、使い勝手への配慮も万全だ。
インパネは、センターメーターに代表されるシンメトリカルかつ立体的なレイアウトがポイント。デザインコンシャスな仕立てだが、小物を置くスペースが豊富に設けられていて、使い勝手も決して悪くない。
  LANCIA YPSILON 1.4 16V
■全長/全幅/全高(mm)
3780/1720/1530
■ホイールベース(mm)
2388
■トレッド(前/後)(mm)
1435/1425
■車両重量(kg)
1090
■エンジン種類
直4DOHC 16V
■排気量(cc)
1368
■最高出力(ps(kW)/rpm)
95(70)/5800
■最大トルク(kg-m(Nm)/rpm)
13.0(128)/4500
■トランスミッション
5MT
■サスペンション(F:R)
ストラット/コイル:
ツイスティングビーム/コイル
■ブレーキ(F:R)
ディスク:ドラム
■タイヤ(ホイール)
195/55R15(6J)
■東京標準現金価格
¥2,280,000
問い合わせ先=ガレーヂ伊太利屋 TEL:03-3529-0777
※上記スペックは本誌発売当時の値、価格は税抜き価格です。
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