日本のワインディングでも十分すぎるパフォーマンスを発揮してくれた911 GT3。
では、本来の居場所ともいうべきサーキットで、ロードバージョンはどんな走りをみせるのか?
舞台は富士スピードウェイだ。


リポート|熊倉重春|S.Kumakura フォト|松本高好|T.Matsumoto

「これっきり」の相棒がポルシェ911、それもGT3だなんて感慨も歓びもこれ以上はない。
 数えきれないほど超高速ドラマの舞台となってきた富士スピードウェイの本コースは、この9月16日から一年以上、前例のない大規模な改修工事のため閉鎖される。やがてはF1も呼び戻せる、国際最先端基準で生まれ変わる。だから、とりあえず私にとってはこの日が「これっきり」、現行コースでの走り納めになるはず。かつてフレッシュマン時代に寝食も忘れて通いつめた富士だけに、コーナーごとに思い出がよみがえる。どれも歴史になってしまうんだなあ。
 いや、そんな感傷に囚われている場合ではない。ピットロードでは、GT3が私を待っている。全方位満点の万能スポーツカー911とはいえ、GT3ともなると公道では真価の一端しか垣間見ることができない。持ち前の性能を発揮しきれないだけでなく、たとえばサスペンションストロークの小ささなど、それなりの弱点も露呈するからだ。存分に唄わせるには、やはりサーキット以外ない。
 それもそのはず、GT3はワンメイクレース(カレラ・カップ)仕様だけでなく、スカイラインGT-R怒濤の100連勝を阻止したスーパー耐久仕様、さらには本格GTレース仕様に至るサーキットの覇者たちの、直接のベース車両なのだ。ナンバーを付けて路上を這いまわっているのは、世を忍ぶ仮の姿でしかない。
 それだけに、乗り込んだ瞬間から緊張感に包まれるGT3、いざピットロードから発進すると、それだけで強固な一体感が身に沁みる。逆にいえば、こんなにレースに近い仕立てまで施せるほど、基本の911ボディが余裕を持った設計なのがよくわかる。
 低い足回りの強化はスプリングとダンパーにとどまらず、もちろんブッシュ類も専用なので、そのぶんドライバーの動きにダイレクトに反応する。だからイン側に沿って第1コーナーをクリアして、いい気になってアクセルを踏みすぎた途端、タッとテールが流れるのとカウンターを当てるのがみごと時間差ゼロ。この瞬間、クルマの隅々まで神経がつながったのが実感できて、もはや「乗る」より「着る」感触がひしひし迫る。
 さらにレース気分を増幅するのは、Aコーナー(通称サントリーコーナー)、ヘアピン、Bコーナー(通称ダンロップコーナー――こんな名前も消えるのだろうか)などに差しかかってシフトダウンするたびにヘルメット越しでもヒュルヒュルかすかに聞こえるギアの唸り。アンダーコートも遮音材も薄く削ったGT3ならではの響きだ。そのくせエンジンは喧しすぎず、フルに踏んで引っ張る「バラララッ!」も気にならない。
 もちろん、いかにスパルタンであってもロードバージョンのままではソフトな面も出て、中高速の難所100Rではダラ〜ッと前後そろって流れ、あわててアクセルを戻してノーズの向きを整える必要があるし、Bコーナーから右側にクルマの幅だけ余して3速で立ち上がるにも、いきなり踏んだらヨレる。ここはせめてS耐仕様(カップ仕様は軽合金ドアなどでさらに軽い)ぐらいには固め、スリックも履きたいところだ。
 逆に、チビるほど凄いのがブレーキの効き。テスト車には100万円以上もするオプションのPCCB(ポルシェ・セラミック・コンポジット・ブレーキ)が付いていたのだ。これが鬼のように効くだけでなく、効き方が言葉で説明できないほど超絶的なのだ。
 衆人環視の中では失敗できないから、最終コーナーを慎重に抜けると出口で165km/h。そこから6速まで引っ張ると、第1コーナー手前150mの看板で楽々250km/hを超えてしまうのだが、ここで余裕のつもりで踏むと停まりすぎてしまう。それも踏力と制動力がきちっと正比例するので、ものすごく加減しやすい。温まらないと効かないレース用パッドと違って、さすがに公道走行も考えた設定なので、踏むとすぐ効く。レース用は金属ローターでなければならない規則なので、これだけは路上用GT3の圧勝だ。もし私が買うなら、これも注文せずにはいられないだろう。
 それにしても、さすがはポルシェ。こんなにサーキットを満喫できるリアルスポーツでありながら(おそらくナンバー付きレースなら最強)、GT性能を活かしてツーリングもでき、そればかりか近所のショッピングにも使えてしまう。だとすれば1419万円は、けっして高すぎない。
 

ノーズ部分の後退角を大きくして40mmのリップスポイラーを追加したフロントエンドや新設計のサイドシル。そして、これも新デザインとなるリアウイングで空力をリファイン。Cd値は0.30と先代同様だが、前後揚力は低減されている。ホイールも専用デザイン。

  軽量化された鍛造ピストンやチタンコンロッドの採用、バリオカムの採用などで高回転化を実現した3.6リッター。排気量、圧縮比は従来と同じだが、パワー&トルクも向上している。
  これこそが本来の姿!? 写真は日本でもシリーズ戦が展開されているGT3のワンメイクレース「カレラ・カップ」仕様車。当然、走りはロードバージョンより戦闘的だが、レース仕様とはいっても基本は同じ。
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