
あのSL500を超えるクルマなど存在するのか?
SL55AMGに乗り込む前、われわれはこう考えていた。
過給器を組み合わせれば、500psを獲得することなどそう難しい時代ではない。
しかし開口部の大きいボディは絶対それに耐えられまい。
そしてそんなクルマは、到底メルセデスではない。
だが思惑は簡単に崩された。
しかも、圧倒的なまでに。
リポート|熊倉重春|S.Kumakura フォト|佐藤正勝|M.Sato |
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設計者の夢を描き尽くしたスーパーカーもあれば、すべてにおいて完璧を目指したスーパーカーもある。途方もなく速く、限りなく贅沢で実用性も文句なく、安全で環境適合性も高いと胸を張るメルセデスSL55AMGなど、間違いなく後者の代表だろう。そこに込められた執念の深さを思うにつけ、身の震えが止まらない。
もともとベースとなったSL500からして超高性能スポーツカーでありGTであると同時に、実用的なラグジャリークーペでもあり、ほぼ完璧な異次元走行物体だった。そのあらゆる要素を二段階も三段階も引き上げたSL55AMGは、完璧の概念そのものまで引き上げたといえる。そういえば、昨年SL500が発表された時、同時にAMG仕様のプロトタイプも見え隠れして、とても不気味な予感を抱いたものだ。
そんな前置きはともかく、たとえスーパーカーだろうと乗ってナンボのSL55AMG。当たり前だが、まず動力性能が超絶的だ。5リッターV8の谷間にリショルム型スーパーチャージャー(2個の螺旋で空気をねじ込む)を置き、クランクからベルトを使って最大2万5000rpmで回し、大気圧+0.8バールで過給というのは、レース界の換算だと8442cc(!)に相当する。
どうも最近のドイツ高性能車は感嘆符ばかりで困るが、とにかく最高出力は306psから500ps、最大トルクも46.9kg-mから71.4kg-mへと大幅に増強。そればかりか、わずか2000rpmで66kg-m、いや1500rpmでも50kg-m以上をひねり出す。まるでトルクの国からトルクを広めにきたようなエンジンなので、踏まなくても誰より速い。
だからシングルカムで3バルブという形式は同じでも、強烈な燃焼室圧力に耐えるように、ピストンからベアリングから、果てはクランクケースまで専用部品で強化してある。もちろんバルブタイミングも過給専用仕様だ。
これがどれほど速いかというと、とてもゼロ発進100km/hまで4.7秒は言葉で表現できない。2トンの巨大な物体がこうも鋭く動けるものかと、アクセルを踏みながらも現実を受け入れられない。それもポルシェ911ターボのような鋭さでなく、実に滑らかにシュルッと駆け出した瞬間、すべての世界が後方に消し飛び、何もない空間にいる自分を発見する。
ただしサウンドはシュルッとはしていない。ノーマルのSL500は滑らかに唄うのに、こちらは野性むき出しというか、なんとなくアメリカンというか、ハイパワーV8そのものの響きをあたり一帯に叩きつける。軽く踏むとドロロロ――と少し切れた感じだが、深く踏んで3000rpmを超えたあたりから、まるでナスカーのようなドビャーッ! という怒号に激変する。音量は適度に抑えられ、オープン状態で踏んでも遠雷を聞くような感じだが、離れたところでもそう聞こえるらしい。加速のたびに、遠くの人々がいっせいに振り向くことで、それがわかる。メルセデス本社に取り込まれ、最近けっこう優等生ぶってきたAMGだが、ここに来て昔の悪ガキぶりを思い出したようだ。
そんなわけで、走っている限り常に腕力を持て余しているSL55AMG、それではもの凄いジャジャ馬なのかというと、決してそんなことはない。今回のテストでも、実はパワーやトルクより、それを見事に消化吸収したシャシーに感銘を受けた。ここまで来ても、「エンジンより速いシャシー」というメルセデスの社是が忠実に守られているのだ。
もちろん、レーシングカーまがいのチューニングではない。電子制御のエアスプリング/ダンパーを駆使した自慢のABC(アクティブ・ボディ・コントロール)も専用のプログラムが与えられているが、基本的な乗り心地の快適さなどはSL500そのままだ。専用デザインのホイールに履くピレリPゼロ・アシンメトリコも、サイズはノーマルと同じ。なのにESPやSBCなど二重三重の安全装備にも助けられ、公道で顰蹙(ひんしゅく)を買いまくるほど攻めても(やってはいけません)、まず安定を乱されることはない。基本的には軽いアンダーステアのまま、どこでもパワーオンで切り抜けられる。ABCをスポーツモードに切り換えると、ステアリングを切り込んだ瞬間、外側がグッと踏ん張る感触が出るが、ノーマルモードでも限界が低くなるわけではない。路面が粗いと少し突き上げも出てSLの雰囲気にふさわしくないので、基本的にはノーマルが正解だ。それにこのボタンはシフトレバーの右後ろにあり、ハンドル位置の左右にかかわらず(現状では左のみ)、いちいち振り向かなければならないので操作しにくい。
そしてもちろん、ESPもオフにしないのが原則、いや鉄則だ。試してみると、急な発進で容易に後輪を空転させてしまうし、コーナーでちょっと余分に踏んだだけで、てきめんにテールが持って行かれる。これと各輪個別制御のSBCあればこそのハイパワーであることを忘れてはならない。SBCの作動感そのものは、後輩のEクラスほどは洗練されていないが、どんな姿勢からブレーキングしても、キュッ、キュッと身をよじりながら確実に減速してしまう。
そのブレーキはフロントの片側だけでもパッド4枚とピストン8個を持つ草わら鞋じのようなキャリパーが特徴で、これに比べるとSL500が貧相に見えて仕方ない。しかし、たぶん公道でこの強烈なブレーキの実力を試し切るチャンスはないだろう。今回、後続車がないのを確かめてから思い切り踏んでみたが、要するに停まっただけだった。以前CL55の限定仕様(F1)のコンポジット・ブレーキをテストした記憶と比べると、あちらの方がさらに強力だったかもしれない。いずれにしても、パワーを上回るシャシーの象徴のような装備ではある。
このように凄い凄いばかりのSL55AMGだが、裏返してみると恐ろしい存在でもある。短時間のテストでも簡単に道徳心など吹き飛び、周囲を見下している自分に気付く。たぶん、これがメルセデスの本性(の一部)でもあるのだろう。しかも1600万円を払えば、誰でもすぐそうなれる。そのせいか注文殺到で、今からだと納車まで二年以上(!)待たされるそうだ。それを聞いて、とりあえず諦めることにした。と、日記には書いておくんだ。
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Mercedes-Benz SL55 AMG |
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| ■全長/全幅/全高(mm) |
4535/1830/1295 |
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| ■ホイールベース(mm) |
2560 |
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| ■トレッド(前/後)(mm) |
1570/1550
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| ■車両重量(kg) |
1970 |
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| ■エンジン種類 |
113M55/V8SOHC24V+SC |
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| ■排気量(cc) |
5438 |
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| ■最高出力(ps(kW)/rpm) |
500(368)/6100 |
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| ■最大トルク(kg-m(Nm)/rpm) |
71.4(700)/2750-4000 |
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| ■トランスミッション |
5AT |
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| ■サスペンション(F:R) |
4リンク/コイル:
マルチリンク/コイル |
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| ■ブレーキ(F:R) |
Vディスク:Vディスク |
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| ■タイヤ(ホイール) |
F:255/40R18(8.5J) R:285/35R18(9.5J) |
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| ■東京標準現金価格 |
\16,000,000 |
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| 問い合わせ先 |
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| ※上記スペックは本誌発売当時の値、価格は税抜き価格です。 |
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| 異次元の世界に足を踏み入れてもなおシャシーはエンジンより確実に速い |
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ブレーキは超強力。特にフロントは1輪あたり4枚(!)のパッドを持つ8ポッドタイプ。ディスク径もフロント360mm、リア330mmに拡大されている。ホイールはAMGとしては新鮮なフィンスタイルだ。 |
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SL500のV8SOHCをベースにストロークを8mm拡大、プラス473ccを獲得。さらにスーパーチャージャーが組み合わされ、スペックは驚異の500ps/71.4kg-mへとジャンプアップ。 |
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スタイリングはロングノーズ&ショートデッキというFRスポーツのセオリーに則ったもの。スポイラー類はフロント、サイド、リアに装着。車高はSL500より5mmだけ低い。 |
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バリオルーフを開ければ、約16秒でクーペからロードスターに変身。デュアルタイプの左右4本出しとなるマフラーは専用チューンで、迫力のあるアメリカンなサウンドを響かせる。 |
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形状はSL500に準じるものの、バックレストにAMGエンブレムが埋め込まれるなど、スペシャルな雰囲気を漂わすシート。ヒーター、ベンチレーターは標準装備。 |
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ESP、SBC、ABCという電子デバイスは、500psを確実に路面へと伝達。その結果、0→100km/hを4.7秒で駆け抜ける、筆舌に尽くしがたい加速がもたらさせるのだ。 |
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