『RONIN』
'98.AMERICA
ストーリーのカギとなるケース(ホントはリモワ)の中身と、壮絶なカーチェイスが話題呼んだ傑作サスペンス。とりあえず、ロバート・デ・ニーロとジャン・レノのファンは必見です。まもなく劇場予告編などの映像特典付きDVDソフトが、7月5日から9月2日の期間限定スペシャルプライス2,500円(税別)で発売される。●発売元=20世紀フォックスホームエンターテイメント
毎月休まずに続けても丸2年……。
ちょっと懐かしい名車たちを紹介してきたこの企画も
前回で連載24回を数えた。それを記念して
今月は敢えて現行モデルにスポットを当ててみる。
出演した映画は、壮絶なカーチェイスで話題を呼んだ作品
スクリーンの中でフランス車を蹴散らす、あのクルマだ。

写真=松本高好|T.Matsumoto 文=熊倉重春|S.Kumakura



 観ながら恥しさに俯いてしまいたくなる『RONIN』ではある。武士や浪人についての聞きかじりの知識を、無理やり元諜報部員に当て嵌めるだけなら許そう。彼らが職業的武力行使者として銃を撃ちまくるのも許そう。でも、それだけでは足りず主君や忠義についての蘊蓄まで延々と垂れ流すところに「どうだ、これだけ勉強しちゃったんだぜ」という監督ジョン・フランケンハイマーの自慢が見えるから、日本人として恥しくなるだけではない。
  我が身を省みて、同じように彼らのカルチャーを表面だけで理解しているかもしれないから恥しいのだ。クルマ界にはびこる、精密で質実剛健なドイツ、瀟洒なフランス、陽気で熱血のイタリアなどという単純きわまる色付けにも、それは如実に現れている。
  それはそれとして、フランケンハイマーがかなり勉強熱心で問題意識も持つ監督なのは事実のようだ。『明日なき十代』、『終身犯』(ともに'61年)、『5月の7日間』('64年)、『サンタモニカ・ダンディ』、『対決』(ともに'89年)などでは、社会の関心を惹くシリアスな題材に正面から迫っている。一方、それらとは対照的な娯楽作品でも、たとえば『グラン・プリ』('66年)で、F1に挑戦するヤムラ・モーターズの経営者(モデルは本田宗一郎)を通じ、比較的まともに日本人像を理解しているようにも見える。

  いささか話が大袈裟になってしまったが、そういう制作態度は、映画に登場するモノ選びにも現れる。この『RONIN』の場合も、序幕のセリフでそれがわかる。謎の雇い主から仕事を指示された工作員が、「速いクルマが必要だ。アウディS8」と要求するシーンだ。この指定はきわめて正しい。
  大の男が4人ちゃんと乗れて、嵩張る荷物も積めて、いろいろな道路状況や天候も加味して、総合性能でアウディS8より速いセダンは、自動車の歴史に存在しない。メルセデスSクラスのAMG仕様やBMW7シリーズ・ベースのアルピナが、数字でS8を凌いでも実際に追いつけないわけは後で説明する。とにかく追跡と逃走ならS8しかない。
  今のアウディ・セダンには、Aの列とSの列がある。Aがノーマルで、それを熱く鍛えたスポーツ仕様がS。その最高峰が、全長5m超の堂々たるプレステージセダンA8から生まれたS8で、スペックを一瞥した瞬間、裕福なマニアのためのドリームカーなのがすぐわかる。 4.2リッターの総アルミ製V8エンジンは、気筒当たり5バルブの計40バルブでもちろん4カム。これをA8用の310psから360ps('96年のデビュー当時は340ps)にまでスープアップしたのがS8の心臓だ。これにゲトラグ製6速MTまたはZF製ティプトロニック付き5速ATを組み合わせ、さらにトルセン・センターデフによって前後に振り分ける自慢のフルタイム4WD(クワトロシステム)まで総動員することによって、S8は最速セダンの称号を勝ち得ることになる。
  このクワトロシステムは、基本の駆動力前後配分を50対50%とし、それぞれにかかる抵抗に変化に応じて25対75%から75対25%まで瞬時かつ無段階に変化するのが特徴。いや、瞬時ではなく同時だ。ウォームギアの非可逆的性質を利用したトルセン方式では作動の順番がなく、完全に時間差ゼロ。本当の意味でフルタイム4WDと呼べるのは、普通のベベルギア式センターデフか、これ以外にない。
  そして、こんな高度なメカニズムを包むボディそのものがA8とS8の根本でもある。ASF(アウディ・スペースフレーム)と名乗るそれは、戦後のセダンとしては'50年代初期のディナ・パナールを除けば例のなかった総アルミ製なのだ。最近その経験を活かしたアウディA2も登場したが、とにかく軽量が最大の武器。もともとアウディのボディシェルは軽いことで知られていたが、そのこだわりがここに結晶したともいえる。。
 
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